「カレンの文化は詩に満ちている」ーTOKI COFFEE・トキさん
- ナマケモノ事務局
- 7 時間前
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ーーコミュニティと生態系の再生に取り組む人びとに出会い、 その暮らしや文化を体験しよう。この旅を通じて、自分の中に眠っていた可能性を再発見し、世界を見る新しい視点を見出し、これからの生き方に活かしていこう。ナマケモノ俱楽部ーー
2025年2月中旬、4泊5日の「リジェネラティブ&ローカル・ツアー in 北部タイ~ 森の民が紡ぎ出す“懐かしい未来”を体験する旅」を実施しました(旅程はこちら)。
北は青森から南は神戸と日本全国から職種も年齢(20代~70代)、そしてツアー参加の目的も人それぞれの19名が集いました。濃厚な旅から日本に戻って4カ月。参加者から募った編集チームの尽力により報告集が完成しました。インタビューを中心に「ナマケモノしんぶん」で旅の記録と感想をシェアしていきます。
>>episode1「伝統に学び、つくる工程を楽しむー北部タイ、自然染色家・アティさん」
>>episode2「お米の神様とお金の神様、どちらも私たちに惜しみなく分け与えてくれる」
>>episode3「小規模だからこそ信頼と顔の見える関係が続くースウェさんとコーヒーの森を歩く」
>>episode4「37の精霊でできた私たち人間ージョニさんの世界観と招魂の儀式」
>>episode5「循環型農業「ク」を守り、森の民として生きたいーディープヌーさん」
>>episode6「コーヒービジネスでアカ族の美しい文化を発信したいーAkha Ama Coffeeアユさん」



Akha-Ama Living Factoryを後に、再度チェンマイ市内まで車を走らせ、向かったのは、アユさんのもとで学び、起業した「TOKIコーヒー」のトキさん(30歳)のカフェ。ツアー最後のランチを、カレンスタイルで用意してくれていました。昼食後はトキさん、奥様のナーンさんが淹れてくれた浅煎り、中深煎りなど、様々なテイストのコーヒーをいただきながら、トキさんのお話を伺いました。
〈トキさんのお話〉
TOKIは本名でパガニョの言葉で「オウム」と言う意味です。赤ちゃんの時からお喋りでした。TOKIはコーヒー屋でもあるのですが、同時に、コミュニティへのエコロジカルツアーを組んで人々を案内する教育プロジェクトとして、カレン族の文化を守る機関でもあります。コーヒーの生産者としては勿論のこと、民藝品をつくったり、カカオ生産者を応援するプロジェクトでもあります。将来は海外輸出にも取り組みたいです。
私はチェンマイの北西、カラヤニワダナー郡メロキー村の出身です。メロキーは川の名前でもあります。同じ村に住むトンディおじさんという、ジョニさんのように有名な長老に出会い、影響を受けました。
トンディおじさんは、伝統音楽でパガニョの文化タイ社会にアピールした最初の人です。非常に多面的な人で、ジョニさんとは農民運動の仲間でもあり、コーヒー生産者としても最初に成功した人でした。大学や外部教育機関のアドバイザーとしても活躍しています。
私にとってトンディおじさんは文化の先生です。人と自然のつながり、宇宙観を教えてくれました。コーヒー生産者としては、Akha-Ama Coffeeのアユさんの元で修行しました。アユさんが"TOKI COFFEE"と命名してくれ、コーヒービジネスとしての冒険がスタートしました。
レイジーマンコーヒーと同じく、私の暮らす村もかつては麻薬禍に見舞われました。多くの人が麻薬に溺れ、麻薬を生産することでしか生きていけませんでした。そんな時代を経て、1968年、初めてコーヒーがメロキー村に導入されました。麻薬禍からの地域再生策を掲げる「ロイヤルプロジェクト」の作物リストにコーヒーがあったのです。国王は、国連の方針に応える形で、森を皆伐してコーヒー農園にしようとしました。しかし、私たちはその方針を拒否し、コミュニティが管理する森の中にコーヒーを植えるというやり方でコーヒー栽培を導入しました。
しかし、コーヒーの実を収穫しても、どうやって加工するのか、誰も知りません。コーヒーを飲む文化もなかったので、次第にコーヒーの樹は放置されていきました。その中で、私の祖父だけが細々とコーヒーの樹を管理していました。その次の両親の代で、町にコーヒー豆を売りに行き、換金することが行われるようになりました。
ある時、村で住民たちを対象にした健康診断がありました。すると彼らのほとんどが、高血糖や高血圧という結果になりました。当時、村人たちはインスタントコーヒーに大量の砂糖や加工ミルクを使っていました。それが一因ではと気づき、そこからきちんとした本物のコーヒーを村で作りたいという思いを強くしました。
一方で、ロイヤルプロジェクトによって持ち込まれたコーヒーが、今では「アグロフォレストリー・コーヒー」として付加価値がつき、高品質のコーヒーとして世界から注目されています。そういったコーヒー生産に村で取り組むことで、少しでも村人の健康や福祉の改善につながればと願っています。
カレン族の文化は「詩」に満ちています。韻を踏むラッパーのように、恋心も詩で伝えます。私も詩や民話をもっと学び、それらの文化にインスピレーションをもらいながら、この仕事を続けていければと思っています。ぜひ応援してください。

【旅のシェアリング:自分の心を拓く時間】
トキさんのお話を聞いたあと、4泊5日のツアーを締めくくる、ツアーメンバーでの何度目かの振り返り・シェアリングを行いました。TOKIさんも参加してみなさんの感想に(辻さんの英訳+オシさんのタイ語訳で)耳を傾けてくれました。
○ひろくん:今回の旅で多くの人と出会いました。その中で、村に残って活躍している人、都市部に出ている人が密接に繋がっている状態がコミュニティに残っている。なにか問題がでたときにはじっくり話し合う。そんな姿に感動しました。自分の生活に落とし込みたい。
○三休さん:この旅を通して3つの後悔があります。1つ目は、もう少し英語、タイ語を学んで来るべきだった。2つ目は、帰国して伝えるための準備が足りなかった。3つ目は、コーヒー店を一緒にしている妻も一緒に連れてくればよかった。今回、感動したこと、学んだことを日本に帰ってからしっかり伝えられる人になりたい。
○ベリーさん:普段出会えない人に出会い、本当に皆さん生き生きとしていらした。アカアマコーヒーで、インパクト・エージェントでありたいと仰っていたことに、今までの経営方針と逆転するのだなと感じました。豆を買ってあげてる、売ってあげているではなく、コーヒー豆を預からせてもらっているという気持ちに感銘を受けました。儀礼と言う大事さも知りました。
○砂ちゃん:オシさんに気遣って頂き、山の懐に抱かれ、皆さんの優しさに包まれて嬉しかったです。
○康平さん:ここに来る前に『レイジーマン物語』を読んできました。「カレン族は、タイの主流社会によって、批判や差別、時には迫害の対象とされ、常に主流社会の周辺に置かれてきた」と記されていました。日本でも「主流社会」が確かに存在し、多くの人々が同じ方向を向いて流れていきます。今回この旅に参加した皆さんが、自信をもって自分だけの道を歩もうとしていることに、大いに励まされました。
○航大くん:参加したキッカケは主流社会に生きづらくなり、持続可能の知恵を学びたいとの思いからでした。その一端を自分の目でみて、学ぶことができました。先生が研究者として現地の方とどのように関わっているかの目線も学ばせてもらいました。素晴らしい方々とお話できた出会いに感謝したい。
○OICHOさん:日本では「コーヒー屋」とカテゴライズされてしまいますが、自分ではそのような意識はなくて、1人の人として、たまにはファーマーとして、たまにはコーヒー屋として、色々な表現ができるよう楽しみたいな〜とこの旅に参加しました。それをすでに表現されている皆さんと寝食を共に過ごし、感動的な時間を過ごせて嬉しかったです。
○夏未さん:オシさんをはじめとして皆さん優しい〜。それってただ性格が優しいだけでなくスピリチュアル的、辛さ、嬉しさから来る優しさ美しさだと思いました。自分もそんな人になりたいと思いました。
○みちこさん:すべてはつながっていて、循環しているという信条を大切に、暮しを実践されているのを見させて頂きました。カレンの人々は本当に優しさにあふれていました。男性陣の確固たる信念や、それを支えている女性陣の凛とした美しさ。それらがあるのは、社会的・政治的に困難に面していても、伝統を守り続けていくアイデンティティや、コミュニティにしっかりと守られているという絶対的な安心感の中で生きているからなのかなと思いました。
○奈緒さん:5日間で内なる自然とつながり直せて、シンプルな状態になっています。印象的だったのは、同世代のリーダーと出会えたこと。周りをサポートしたいと思って長く活動してきましたが、気持ちを持続するのが難しくなってきていました。それを思い直させて頂きました。
○玲子さん:自分の中の本当の故郷に出会えたようです。自分たちが自然の一部であり、生活の中で当たり前に感謝し、神を敬い、こんなに心が純粋で豊かな人たちがまだいたのかという驚きに心が震えました。会う人、会う人ににこやかに、温かく迎えて頂き、Giveすることの大切さを改めて感じました。自分自身もやってあげたい。私たちは地球に住まわせてもらっていて、土地も家も本当は自分のものでは無いのだけれど、所有(経済)が心を支配して自然への感謝を忘れてしまった気がします。それには自分の不完全さを認め、謙虚にゆっくり生きていくことかなと思いました。
○雅子さん:普段の仕事では自分の考えを話す機会はあまりないです。慣れませんでしたが、元気になってきました。地域の課題をどう解決し、ゴールをみられるようにするか。仕事にも活かしていけたらと力をいただきました。
○知江さん:言葉のコミュニケーションはとれませんでしたが、五感で感じた深い学び、深い慈愛を自分だけでなく、自分のコミュニティに取り込んで伝えていきたいと考え中です。
○めぐみさん:村の皆さんがすごい自然体で受け入れてくださったと感じました。優しさ以上のものが自分の中に入って来ました。言葉に表すと難しいですが、村の皆さんのように素直でいられる自分でありたいと思いました。
○香代子さん:昨日、田んぼに落ちて落ち込んでいたのですが、トトちゃんが「やってあげなくちゃ」ではなく、心から心配して汚れを吹き取ってくれました。その自然の所作が慈愛に満ちていて、この子がリーダーや村の方々の象徴的な姿だと思いました。
○ともちゃん:世界中旅をしていますが、この5日間で出会えた1人1人が宝物のようでした。仲間たちと、自分の気持ちや感情と向き合うカウンセリングをし、たくさんの感情を出し合っていますが、このグループでも同じように感じました。そういった連帯感を持ち帰りたいです。
○馬場さん:TOKIさん、アユさん、アティさんという新しい仲間に出会えたことが嬉しかったです。コーヒーはただ買う物、売る物ではなく、私たちをつなぐきっかけ、つながりのはじまりなのだと確認できた旅でした。
〇オシさん:コメントのかわりに、大好きな「故郷」を日本語で歌いたい。(3番までみなでたっぷりと合唱しました)
○辻さん:「山は青きふるさと、水は清きふるさと」なんて、考えてみると、まさに我々が失ってきたものですよね。でも、今日、息子のようなアユさんが言っていたように、ぼくたち一人ひとりの心の中に「美しさ」が生きている、心の中に文化が生きているうちは、まだ諦めることはない。タイのアカ族が持ってきたコーヒーをぼくら東京の人たちが飲んで、心を揺さぶられ、共感する。とすれば、そこに希望がまだあるわけです。
昨夜、香代子さんから聞いた話には、本当に驚いた!ブッダではないけど、宗教経験ですね。ある人が現れて、すべての振る舞いが慈愛に満ちている。でもこれは特別な人がいたということではなく、ぼくらの在るべき姿だから深く感動したんだと思います。ある意味、ぼくらはそれを近代化の過程で手放させられてきてしまった。自分の中の「本来の自分」を抑えつけて生きるのは、とても苦しく、辛いことです。あの少年がシンボル、そして会ってきた人々が、皆トト少年のような優しさ、人間性を示してくれたということかな、と皆さんの発言を聞いて思いました。
ぼく自身にとっても今回の旅はとても印象深かったです。知っている人に会っても、毎日が驚きに満ち、新鮮だった。本来、人生とはそういうものだと思います。
ツアーを終えて皆さんがそれぞれの場所に帰っても、みなさん一人ひとりが輝いて、喜びを持って生きていってほしいと思います。また、お会いしましょう!

以上、全7回にわたる「リジェネラティブ&ローカル・ツアー in 北部タイ」旅の報告集からの抜粋でした。この報告集作成にあたっては、編集チームを参加者から募り、康平さん、知江さん、玲子さんが手をあげてくれました。そのほか参加者みなでインタビューの文字おこしや写真の共有など、学びをふりかえり、消化し、伝えていく時間をとりました。ありがとうございます。
ナマケモノ俱楽部では、人や自然、文化と出会い、コミュニティでの暮らしに寄り添わせていただくことで自分自身の在り方を問い直していく「リジェネラティブ&ローカル・ツアー」を継続して企画しています。
北部タイへの旅は2025年11月中旬、2026年2月中旬に企画予定。今度はあなたも一緒に「学び遊び(まなそび)の旅」に出かけてみませんか?
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