37の精霊でできた私たち人間ーカレン族・ジョニさんの世界観と招魂の儀式
- ナマケモノ事務局
- 33 分前
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ーーコミュニティと生態系の再生に取り組む人びとに出会い、 その暮らしや文化を体験しよう。この旅を通じて、自分の中に眠っていた可能性を再発見し、世界を見る新しい視点を見出し、これからの生き方に活かしていこう。ナマケモノ俱楽部ーー
2025年2月中旬、4泊5日の「リジェネラティブ&ローカル・ツアー in 北部タイ~ 森の民が紡ぎ出す“懐かしい未来”を体験する旅」を実施しました(旅程はこちら)。北は青森から南は神戸と日本全国から職種も年齢(20代~70代)、そしてツアー参加の目的も人それぞれの19名が集いました。濃厚な旅から日本に戻って4カ月。参加者から募った編集チームの尽力により報告集が完成しました。インタビューを中心に「ナマケモノしんぶん」で旅の記録と感想をシェアしていきます。
>>episode1「伝統に学び、つくる工程を楽しむー北部タイ、自然染色家・アティさん」 >>episode2「お米の神様とお金の神様、どちらも私たちに惜しみなく分け与えてくれる」 >>episode3「小規模だからこそ信頼と顔の見える関係が続く」

得度した木が森を守る
ノンタオの由来は、ノン(池)タオ(倒れる)。神様が降り立ち、倒れた場所にできた村がノンタオ村なのだそうです。そのまさに倒れた場所と言われる谷あいの畔に豊かな森の畑が広がります。
ノンタオ村のはずれ、レイジーマン・テラスに続く道の脇に小さな社がありました。「みんな、ちょっと時間をとってここに立ち寄ろう」と辻信一さん。土道から草むらをわけいり進むと、社を中心に円く開かれたエリアがあり、巨木たちに黄色い布がまかれている光景が目に入ります。
この黄色い布は、仏教での得度の印。出家者に見立てられた木は、法衣を表す黄色の布を巻かれ、聖なる存在となっているとオシさんから説明がありました。黄色い布を木に巻くことでその木が得度したことになり、その木は伐ることができなくなるのです。かつてタイ政府がこの地域一帯の森林伐採をすすめようとしたとき、ジョニさんたちは仲間たちと得度運動を展開し、森林伐採から多くの木を守ってきました。
小さい鎮守の森。現在も村の人びとに大切にされている木々は、大きく枝葉を伸ばし、私たちに木陰をつくってくれます。短い時間でしたが、思い思いに精霊たちの存在を感じながら過ごしました。

カレン民族の世界観ーレイジーマン・ファームにて
ジョニさんが大切に作ったレイジーマン・ファームでは、生まれた子どものへその緒を竹に入れてしばりつける木。薬となる木の皮。食べられる木の幹など本当に様々な種類の木が育てられていました。ジョニさんからカレンの伝統的な世界観についてお話を伺いました。
〈ジョニさんのお話〉
・5つの内なる精霊=頭、右手、右足、左手、左足
・32の外なる精霊=トラ、植物、動物etc
人間(パガニョ)は、5の内なる精霊と32の外なる精霊という37の様々な魂が寄り集まって、生きている。だから自分自身の身体だけではなく、外の精霊も自分の身体として大事にしなくてはいけない。
世界は、天を形づくる7つの層-雲、霧、風、太陽、月、星、火と、地を形づくる7つの層-土、砂、石、風、火、生物で成り立っている。生きものは地の層の1つ。人間は世界の頂点ではなく、世界をつくっているもののひとつに過ぎない、
自分が何の動物とご縁があるかは先祖を通して知ることができる。ジョニさんはハチのクラン。祖父は養蜂もしていた。カレン民族は12の家系(クラン)で構成されているが、そのルーツがだんだんわからなくなってきている。だからこそ、民話を通じてその世界観を学ぶことが大事だ。



村人たちとの夜ごはんと“Lovely Garbage Band”
ノンタオ村2日目の夜はホストファミリー達(たくさんの子ども達も)との夕べの宴でした。レイジーマン・テラス前の広場で焚き火。それぞれの家のご飯が持ち寄られ、火を囲みながら豪華な食卓となりました。みんなで一緒に食べるということは、本当に幸せな時間です。
お腹が膨れた頃、ガタガタと何やら音楽が聞こえてきて、子どもたちが廃材から作った楽器で演奏とステキな歌をプレゼント。子どもたちが寄せ集めのゴミなどを再利用した楽器で子どもたちの“Lovely Garbage Band”の演奏です。
そのバンドの結成は、次のようです。
ある日、ゴミ拾いをしていた障がいのある子どもと一緒に、先生もゴミ拾いをし始めました。その子に音楽を教えたのがこのバンドの始まりだといいます。すると他の子どもたちも音楽を教えてほしいと頼むので、「午前中にゴミ拾いを手伝ってくれたら午後に音楽を教えてあげるよ」と言って、みんなでゴミ拾いをしました。その後“Lovely Garbage Band”を結成したのです。
演奏してくれた子どもたちはまだ幼いため初級クラスだといいます。しかし、一生懸命リズムに合わせて楽器を叩く姿に感動しました。先生が弾く伝統的な楽器テーナも音が綺麗で、聞いていて心地よかったです。
火を見たのもいつぶりだろう。火を見ながらぼーっとする時間。何も考えないことでいつも忙しく動き過ぎてしまう僕の身体にひとときの休憩を与えてくれる。そこへ子どもたちが来ては、何やらお菓子のようなものを火に近づけて、炙って食べていた。彼らは火を全く怖れていなかった。さらに驚いたのは、カレンの大人たちも子どもたちに注意する素振りを全く見せていなかったことだ。
特別、幼い頃に火に対して思い出があるわけではないが、懐かしさを感じるのはなぜだろう。身体が細胞から喜んでいるのを感じた。自然と寄り添うことがこんなにも豊かで心地良いことを知った。満点の星空の下、勢いよく燃え盛る火の前で、全員で輪になり、子どもたちの演奏を聞く。それは、言葉では表せないほど豊かで素晴らしい時間だった。 (航大)


招魂の儀式で旅の安全と心身の健康を願う
3日目の朝、ホストファミリーのお母さんが作ってくれたおいしい朝ご飯を食べた後、ホストファミリーがスウェさんの家までお見送りに来てくれてお別れをしました。言語の違いからお互いの意図がなかなか伝わらない場面も多かったのですが、同時にコミュニケーションは言語だけでないと実感しました。
レイジーマンカフェに到着すると前日に注文して焙煎していただいたレイジーマンコーヒーが準備されており、とてもいい香りがしました。ツアーを代表して辻さんからノンタオ村での2泊滞在へのお礼の挨拶がありました。
「短い間でしたけれど、世界の中でも注目すべき小さな村「ノンタオ村」の真ん中に入って、非常にクオリティの高い経験をさせてもらったと思います。その経験ができたのは、パティ・ジョニやスウェ、オシのおかげだと思い、感謝しています。そして、ほとんど表に現れないが、スウェの奥さんにも感謝したいと思います。彼女は、スウェが私たちを案内してくれている間、スウェの分の仕事もやってくれていました」
そのあと、「キチュ・コッコラ」の儀式を特別にやっていただきました。キチュは糸、コッコラは魂を呼ぶ儀式という意味で、ノンタオのコミュニティでは、パガニョの新年にあたる2 月と、作物が成長途中であまり忙しくない8月頭にこの儀式が行われます。他に個人に何か問題があったり悩みがあったりする場合には個人的に行うとジョニさんから説明がありました。
儀式では長老が司祭的な役割を担います。ジョニさんがお祈りの言葉の途中で「プルークリャケラー」と唱え、それにみんなで「ケーリー」とレスポンスする場面もありました。そして、ジョニさんの前に一人ずつ座り、魂を呼び戻し、「キチュ(糸)」を結んでいただきました。(なつみ)
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お酒やお供えの食べ物を前に、精霊たちにお祈りの言葉を唱えてから、参加者が一人ずつジョニさんの前に座り、手に紐を結んでくれました。手首の結び目を切ったあと、余った紐は肩に置かれました。それはどうなっても構わないというのが面白かったです。そのあと 卵、炊いた米などが入った器が順に回り、皆で少しずついただきました。(まさこ)



記録まとめ:康平、航大、OICHO
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