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ツアーレポート:オルタナティブスクールSECMOLで「教育システム」を見つめ直す

9月1日~9日まで、ナマケモノ倶楽部とジュレー・ラダック共催で、「"懐かしい未来"の故郷で、豊かな自然と文化の未来をみつける旅」を開催しました(ツアー詳細はこちら)。

数回に分けて、旅の日記と、貴重なインタビューなどをこの「ナマケモノしんぶん」でシェアしていきます。私たちが実際に目でみて、村に身を置き、人々の話から感じた学び・気づきをみなさんが受け取り、これからのローカリゼーション運動の知のツールとして活用いただければ幸いです。(事務局)

8日目


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オルタナティブスクール、SECMOLへ


 とうとう旅の最終日。出発前の自分と比べると、世界の見方が大きく広がっているのを感じる。村の暮らしや伝統文化、そして「プラネット・ローカル・サミット」で得た体感は、まだまだ言葉にしきれないほど胸の中に残っている。そんな思いを抱きながら迎えた朝だった。


 午前中は、レーから18キロ離れたフェイ村にあるオルタナティブスクール SECMOL(The Students’ Educational and Cultural Movement of Ladakh)を訪ねた。1988年にソナム・ワンチュックによって設立され、1994年から校舎の建築プロジェクトが始まり、1998年にはダライ・ラマ法王によって開館式が行われた。


 ソナム・ワンチュックは幼少期、地域や文化を無視した厳しい教育制度に直面し、その体験から「地域に根ざした新しい学び」をつくる情熱を持った。彼が目指したのは、体験学習や持続可能な暮らし、文化的な誇りを核に据えた学校モデルだった。また彼は「アイス・ストゥーパ(人工氷河)」を発明し、水不足に苦しむラダックの農業に希望をもたらした。教育と環境を結びつけるそのビジョンは、今も世界中の人々を鼓舞し続けている。


 案内してくれたのは学生のドルジェさん。入口のコンクリートには「日時計」が描かれていて、毎朝そこに立つことで太陽の影から時間を知ることができる。建物はすべて地元の素材で手づくりされ、冬には-20℃まで下がる厳しい寒さにも耐えられるように設計されている。


 南向きの壁に太陽が一番当たるようにし、黒い塗装で熱を吸収。室内には生草を詰め込み、断熱効果を高めている。さらに、太陽熱で暖められた空気が上昇し、冷たい空気を外へ押し出す仕組みになっている。まさに自然の知恵を活かした建築だった。


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3Rから3Hへ

 ドルジェさんが特に強調していたのが 「3R to 3H」 という教育理念だ。つまり、従来の教育で重視されている「3R=Reading(読み)、wRiting(書き)、aRithmetic(計算)」に代わる、「3H=Heart(心)、Head(頭)、Hands(手)」を育てる教育。思いやりや情熱、思考力や知性、技能や実践力をバランスよく育む教育カリキュラムが、生徒たちの学ぶ意欲そのものを高めていくとドルジェさんは考え

ている。その3Hを象徴するような仕掛けが、校内の様々な場所で目にすることができた。


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・森の広場での「対話」や「英語学習」 :生徒たちは森の中や木陰で集まり、自然の中で言葉を交わし、考えを共有している。

・乾式コンポストトイレ :水を使わず、排泄物を発酵させて堆肥に変え、畑や木々を育てる肥料として循環させている。

・体験を通じた学び:「Guess the Weight」、「Feel the Difference」など、体験から思考を促す学びが大切にされている。

・SECMOL SHOP:生徒が店番を担当し、敷地内で育てた野菜や保存食、手工芸品を販売。収入や在庫管理も自分たちで担う。

・畑を学び場とする「Garden as a Teacher」:有機農園で、化学肥料や農薬は使わず、自然由来の資源で循環型の学びを実践している。

・ソーラークッカー:反射鏡型のソーラークッカーやソーラー温水器を設置し、太陽光を活用して調理や湯沸かしを行っている。

・エコ貯蔵庫:土壁づくりの建物の地下に収穫した食料が整頓されて保管されていた。

・気候時計(クライメート・クロック):地球の平均気温上昇を1.5℃以下に抑えるために残された時間をカウントダウン形式で示す時計。世界的なムーブメント(詳細はこちら)。


 体感として学ぶ環境に、驚きとワクワクがとまらなかった。正直、私自身も「ここで学びたい!」と強く思った。



1人ひとりの「生きがい」を育てる


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 その後、SECMOLディレクターのオツァルさん(31歳)から話を伺った。ここの教育は大乗仏教の哲学をもとにデザインされているという。3R教育は理性と合理性に偏り、心の豊かさや手でつくることを失ってしまう。その背景を受け、3H教育では、温かな心と巧みな手、そして身体性を育てることを大切にしている。


「これはホリスティックな教育であり、生きがいを育てる学校なんです」

 そう語る彼のまっすぐな目と力強い言葉から、この理念を確信をもって実践していることが伝わってきた。何より印象的だったのは、「SECMOLは“不合格者のための学校”である」 という言葉。日本の教育観とは逆転の発想に、強い希望を感じた。



学びの場を自分たちでデザインしていく


 ここに通うのは、主に高校生から大学生まで。現在およそ40人ほどの学生が在籍し、1年間の基礎プログラムを学んでいる(公式サイトでは “Foundation Year” として紹介されている)。SECMOL の教育は 「Learning by Doing(体験による学び)」 が基本。生徒たち自身がキャンパスの 清掃・維持・食材調達・店舗運営・飼育・農作業 などをローテーションで担当し、さらにはコーディネーターや事務局を選出して、実際にキャンパス運営を行う「小さな民主主義体験」の場でもある。


 この仕組みを通じて、自己管理能力や責任感が養われるだけでなく、「チームで物事を進める大切さ」や「協働による成果の喜び」をリアルに学べる環境となっている。みんなで担うことの大切さを育むこの仕組みに、心から感動した。また、教師陣については、卒業生から優先的に採用し、子どもたちの興味や関心に応じて、その分野の専門家を外部から招くこともあるそうだ。まさに「学びの場を自分たちでデザインしていく」教育のあり方だった。


 SECMOLでの時間は、私にとって「教育」そのものを見つめ直す体験だった。地域に根ざし、自然と共生しながら、心・頭・手、そして暮らしの基盤となる“home(家)” を育む学び。体感と知識がひとつにつながる学習環境であり、日々の営みの中で自然エネルギーの循環を身体ごと味わうことができる。その姿勢は、未来の教育へのヒントであり、社会全体を変える力を秘めていると感じた。(ももか)


>>SECMOLの公式ウェブサイトはこちら(英語)

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