私たちが目覚めさえすれば ヘレナからの朗報
- 信一 辻
- 2 日前
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更新日:1 日前

数日前、ローカル・フューチャーズのメルマガで、われらがリーダー、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジからのメッセージが送られてきた。彼女がグッドニュースだと喜んでいるのは、長年世界中の主要メディアによって報道されることがほとんどなかった、グローバル経済システムのカラクリ、特に、貿易協定の中にそっと盛り込まれたISDS(投資家対国家紛争解決)条項の危険な本質が、ようやく、影響力の大きいイギリスのガーディアン紙のコラムニスト、ジョージ・モンビオットによって明るみ出されたことだ。
日本でも、メディアによってこの問題がしっかりと取り上げられるように、ぼくたちも働きかけを強めなければいけない。
同じようヘレナは、民主主義の空洞化、富の巨大な格差、グローバル企業による世界支配、気候危機などを引き起こしてきたのが、一部の”悪者”の仕業などではなく、私たちのほとんどが、経済や貿易の仕組みに無知だったせいだということをよい報せだという。
「それがよいニュースだと私が言うのは、何が起きているのかに人々が目覚めさえれば、根本的なシステム変革が可能になるからです」
ではまず、ヘレナからのメッセージ、ついで、モンビオットのガーディアンの記事を、拙訳にて読んでいただこう。
本日、皆さんに、朗報をお伝えできるのがとてもうれしいです!
意義深い思考の転換が起こりつつあるようです。この何十年にわたって、私は草の根レベルで起こる文化的な変化の明確な兆候に希望を感じてきましたが、ようやく、その変化が知的、政治的、そして経済的な権力の中枢においても起こり始めているようなのです。
私たちは過去35年以上にわたって、イギリスのガーディアン紙に働きかけて、貿易規制緩和という中心的な問題について取り上げるよう促してきましたが、うれしいことに、そのコラムニスト、ジョージ・モンビオットが、ついにこの問題をきちんと報道してくれたのです。
モンビオットの記事は、自由貿易協定に盛り込まれたISDS条項について詳述しています。この条項は、外国企業(そして外国企業のみ)に、時には年間GDPの何倍もの金額で政府を訴える権利を与えるものです。私たちが最近、ソーシャルメディアで動画を使って繰り返し伝えてきたように、ISDS条項には、グローバルシステムがいかに不法な仕組みかがよく表現されています。
何十年もの間、自由貿易協定こそが、世界経済の暗い秘密であり続けました。政治家たちは左派か右派かによらず、それまで自分たちが握っていた富と権力をグローバルな独占企業に明け渡したのです。その結果、民主主義は空洞化し、企業による世界支配が生み出されてきました。これこそ、気候変動対策が完全な失敗に終わってきた理由でもあり、ますます多くの人々が食卓に食べものを並べ、屋根の下で暮らすだけのために、ますます速く走らざるを得なくなった主な理由でもあります。こうした圧力がますます人々の上にのしかかった結果、私たちは今、政治がファシズムに向かって傾倒していく現象を目の当たりにしているのです。
でも、そこにもよいニュースがあります。それは、こうした事態が、“悪人たち”が“善人たち”を虐げているからではなく、ほとんどの人が何が起こっているか理解できていないという“無知”から起こっているということです。私の経験では、政治指導者の大多数はこの問題について全く理解しておらず、草の根レベルの社会活動家や環境活動家のほとんど、そして巨大独占企業の内部にいる人々の大多数も理解していないのです。そしてそれがよいニュースだと私が言うのは、何が起きているのかに人々が目覚めさえれば、根本的なシステム変革が可能になるからです。
その意味で、私はスウェーデンで私たちが関わっているキャンペーンに非常に期待しています。私たちはそこで、ISDS(国際労働紛争解決メカニズム)と貿易協定に関する意識を高めるキャンペーンを主導しているスーダン生まれの弁護士、ファティマ・アブダラと協力しています。彼女はジャーナリスト、環境保護活動家、国会議員、その他の著名人に向けてメッセージを発信しています。
私たちは経済活動の可視化を求め、銀行や企業が説明責任を果たすよう要求しなければなりません。大企業や銀行も、他の誰もが従うべきルールに従わなければならないのです。そして、それを実現する方法は何でしょう。80億人の有権者をもつ世界政府を樹立できればいいのでしょうが、それができないのなら、唯一の方法は、すべての企業と銀行を法域、つまり法律の効力が及ぶ地域内に置くことです。このレベルのローカリゼーション、つまり規制緩和で野放しになった巨大グローバル企業を国民国家の管轄内に戻すことこそが、民主主義にとって最低限必要なことです。
民主主義はすでに失われたのでしょうか? いえ、そんなことはありません。最近のBBCリース講演で、『ヒューマンカインド』の著者であるルトガー・ブレグマンは、ファシズムが蔓延している世界においても、大多数の人々は依然として民主主義を信じていると指摘しました。そして彼はマーガレット・ミードの言葉を引用しました。
「思慮深く、献身的な少数の人々が世界を変えることができる。このことを決して疑ってはならない。実際、これまで世界を変えてきた唯一のものは、まさにそれなのだから」
これこそ、私たちが希望を手放さなくていいもう一つの大きな理由です。繋がりあって、変革のために努力する可能性を諦めてはならないと、歴史は教えています。そして、“企業帝国(コーポレート・エンパイア)”が人類全対を脅かしているというこの事実こそ、私たちが団結しなければならない何よりの理由です。
これを読んでくださった皆さんに、この情報を広めるお手伝いをお願いします。モンビオットの記事と、私たちの動画「Trade Gone Mad(狂気の貿易)」をシェア、拡散してください。
皆さんに心からの抱擁を
ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ

“ようこそ、外国の大富豪や大企業の皆さん、どうぞ英国を訴えて、大金をせしめてください!”
(Hello, foreign oligarchs and corporations! Please come and sue the UK for billions)
byジョージ・モンビオット(ガーティアン紙コラムニスト)
Dec 1 The Guardian
わが国の政治制度がどのように機能しているとお思いだろうか? 多分、こんな感じではないだろうか。私たちは国会議員を選出する。彼らは法案に投票する。過半数を獲得すれば法案は法律となり、その法律は裁判所によって承認される。これで終わり。まあ、かつてはそうだったろう。でも、今は違う。
今日では、外国企業、あるいはそれらを所有するオリガーク(寡頭企業家)たちは、政府が制定した法律について、企業弁護士で構成される海外の“裁判所”に提訴することができるのだ。訴訟は秘密裏に行われる。私たちの裁判所とは異なり、これらの“裁判所”は上訴権や司法審査権を認めていない。あなたや私のような市民も、政府も、この国に拠点を置く企業でさえも、これらの“裁判所”に訴訟を起こすことができない。海外に拠点を置く企業にのみ開かれているのだ。
これらの“裁判所”で、政府の法律や政策が企業の予測利益を損なう可能性があると判断された場合、数億ドル、場合によっては数十億ドルもの損害賠償を命じることができる。これらの金額は実際の損失ではなく、その政策がなかったら、企業が本来なら得ていたはずだと、“仲裁人”が判断した金額だ。政府はその政策を断念せざるを得なくなるかもしれない。訴訟を恐れ、今後同様の法律を制定することを躊躇するようになるだろう。
企業同士が互いの経験から学び合い、ヘッジファンドが収益の一部を得ようと訴訟に資金を提供するようになり、ますます多くの訴訟が提起され、それは記録的な数に及んでいる。その結果はどうか。国民主権と民主主義はもはや私たちから手の届かないものになりつつあるのだ。
この手続きは「投資家対国家紛争解決」(ISDS)として知られている。国内法や議会の決定よりも優先されるのは、この条項が国民の同意なしに、そしてしばしば極秘裏に国家間の貿易協定に盛り込まれているからだ。
1年前のこと。環境団体「FoE (地球の友)」は最高裁で大きな勝利を収めた。判事は判決で、カンブリア州ホワイトヘイブンに英国で30年ぶりとなる深部炭鉱を掘削する計画を保守党政権が承認したのは違法だという判断を下した。保守党政権は、炭鉱が炭素排出の収支に影響を与えないという企業側の奇妙な主張を受け入れていたのだ。その後、労働党政権は保守党が与えた許可を取り消した。
8月、所有者たちがケイマン諸島に籍を置く企業が、英国政府を相手どって訴訟を起こした。そして先週、ワシントンD.C.にこの訴訟を審理するための裁判所が設置された。
この企業は、鉱山の操業が許可されていれば得られたはずの利益を求めて英国を訴えているわけだ。その金額は見当もつかない。英国政府に対して、この企業を代表して訴えているのは誰か? トーリッジ・アンド・タヴィストック選挙区選出の国会議員であり、保守党政権下では法務長官を務めたこともある、かの偉大なる愛国者ジェフリー・コックス氏だ。政府が決定を下し、最高裁がそれを支持した後で、外国企業が非民主的な国外の裁判所を通じて異議を申し立てる。そしてその申し立てを代表しているのが、なんとわが国の国会議員だというわけである。
炭鉱訴訟の仲裁裁判所が設置されたのと同じ11月18日、議会答弁で、ロシアのオリガルヒ、ミハイル・フリードマン氏がやはりISDSに基づいて英国を提訴していることが明るみに出た。この件については今のところ何も詳しいことは分かっていないが、フリードマン氏はウクライナ侵攻後に英国から課された制裁措置に異議を申し立てるために、この裁判所を利用している可能性が高いようだ。フリードマン氏はすでにこの件でルクセンブルクを相手どって訴訟を起こしており、160億ドル(121億ポンド)の賠償を求めている。これはルクセンブルク政府の歳入の半分に相当する。フリードマン氏の代理人を務める弁護士の中には、元英国首相の妻、シェリー・ブレア氏もいる。
法律の専門家たちによると、EUが凍結されたロシア資産をウクライナへの融資の担保として利用することをためらわせているのは、ベルギー・ルクセンブルクとロシアのあいだで結ばれている二国間投資協定に基づいて、国外の企業裁判所に訴えられることをベルギーが恐れているためだと考えている。選挙で選ばれた政府の前に、この奇異で非民主的な権力が立ちはだかって、ウクライナが切実に必要としている資金を阻んでいるかもしれないというわけだ。
そのようなことは起こらないと、私たちは保証されていたのではなかったか。2014年、この種の条約の中で最大かつ最も危険なものを推進していたデヴィッド・キャメロン首相は、こう言った。「我々は次々と貿易協定に署名してきたが、これまで一度も問題はなかった」と。この問題に関する貴族院顧問のデニス・ノヴィ教授は、活動家の主張に対して、「脅し文句だ・・・実際にはISDSは英国にそれほど影響を与えていない」と非難した。彼らが言いたかったのは、要するに、こうした訴訟を恐れる必要があるのは貧しい国々だけ、ということだったようだ。そのとき、私はこう警告して世間一般から嘲笑を浴びたものだ。「企業が自分たちに与えられた力を理解し始めると、弱い国からより強い国へと目を向けるようになるだろう」と。
その脅威は今や現実のものとなった。今年、化石燃料企業と鉱山会社は、富裕国であるか貧困国であるかを問わず、記録的な数の訴訟を起こし、カンブリア炭鉱の件のように、気候崩壊を阻止しようとする政府の試みに異議を唱えている。企業側はこれまでに、ISDSを通じて1140億ドル(860億ポンド)を勝ちとっており、そのうち化石燃料企業は840億ドル(640億ポンド)を確保している。これは、世界の経済規模が小さい方の45カ国のGDP合計に相当する。これらの企業が受け取った平均支払額は12億ドル(9億1千万ポンド)だ。最貧国から資金を吸い上げようとする場合さえある。これは気候変動対策への貧しい国々への資金提供という流れに逆行する。自らの存亡の危機を食い止めようと必死になっている国々の政府に、化石燃料企業は巨額の支払いを要求するのである。
これらの訴訟は、気候危機対策の進展を望む政府にも大きな萎縮効果をもたらす。フランス、デンマーク、ニュージーランドはいずれも訴訟を恐れて気候変動対策への取り組みを抑制しており、今後さらに多くの国がその後に続くと思われる。
これらの貿易協定の規則から私たちが得るものは何もない。2020年のメタスタディ(複数の研究結果を統合し分析する研究)によれば、外国投資を促進する観点から見て、「国際投資協定の効果はゼロとみなせるほど小さい」ことが示されている。英国政府が2013年に委託した調査報告書でも、ISDSが「投資を促進する可能性は極めて低く」、「英国にほとんど、あるいは全く利益をもたらさない可能性が高い」とされている。
しかし、キア・スターマー率いる現政権は耳を塞いでいる。報道によると、インドと交渉中の投資協定や、現在交渉中の他の貿易協定にISDSメカニズムを盛り込もうとしているようだ。交渉は極秘裏に行われているため、確かなことはわからない。だが、政府には国民に知られたくないことがあると思わずにいるのは難しい。政府は批判勢力との対話を拒否し、さらなる情報提供も拒否している。
私たちは、多国間投資協定(MTA)と環大西洋貿易投資パートナーシップ(TPP)に反対する大規模な民衆運動を通じて、ISDSを強化しようとする試みを二度阻止してきた。今こそ私たちは、再び結集しなければならない。今度は、私たち国民のことよりも外国企業を気にかけているらしい自国の政府に対して闘うためである。
ジョージ・モンビオット (ガーディアン紙のコラムニスト)









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