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執筆者の写真ナマケモノ事務局

『ローカル・フューチャー ”しあわせの経済”の時代が来た』



日本語版によせて(翻訳:辻信一)


過去数十年、日本への幾度もの旅を通じて、私には、日本の国が今直面している数々の危機についての人々の深い悩みが、ますますはっきりと感じられるようになりました。気候変動、放射能汚染、経済的不安、民主主義への信頼の喪失、若い世代を襲う数々の心理的疾病・・・。数えればきりがありません。 だからこそ、日本をはじめとする世界中の仲間たちとともに、今こうして、従来のメディアや学界からの情報とは違った、より明るく希望に満ちた展望を、日本の皆さんにお伝えできることは、私にとっての幸せです。


本書『ローカル・フューチャー』で、私はローカリゼーションこそが未来への道であり、同時に現在の世界が抱える多くの問題を解決する鍵だと論じています。それは一見、ありえないことのようですが、実はこの道筋は、現在各国政府が人々を導こうとしている道筋に比べて、はるかに出費も、犠牲も少なくて済むのです。ローカリゼーションというのは、単なる理論ではありません。すでに世界中で、数えきれないほどのワクワクするような素晴らしいローカル化プロジェクトが進行中なのです。


ローカリゼーションがどれほど大きな可能性を秘めているかを理解するには、従来の情報源や主流メディアに頼っていてはいけません。世界の各地の“地面”で起こっている事実とつながるのです。するとだんだん、ある“形”が見えてくはずです。そして、やがて、私たちがこれまで当たりまえだと思わされていた、経済についての“常識”には、実は何の根拠もなかったのだということが明らかになります。つまり、“貿易は常によいことで、多ければ多いほどよい”、“成長は常によいことで、早ければ早いほどよい”などという思い込みです。


主流経済学のこうした考え方のせいで、各国政府は、右よりか左よりかに関係なく、グローバル市場の規制緩和を歓迎し、その結果、私たちにとって本当に大切だったはずのものが逆に圧迫されることになりました。グローバル金融機関は今も、大規模でエネルギー浪費型のテクノロジー開発のために何兆ドルという資金を創造する一方で、環境破壊と失業を生み出しているのです。


しかし同時に、世界中で、ますます多くの経済学者、環境派、社会活動家たちが“ニュー・エコノミー(新しい経済)”という運動の輪に結集しつつあります。彼らは一致して、現在の社会的危機と環境危機を乗り越えるためには、根本的な方向転換が必要だ、と考えています。 私は、伝統文化の中での暮らしを経験することで、世代間の、人間と動植物の間の、日常的な交流が生み出す歓びに、目を開かれました。人間という存在が、自然とつながり、他者とつながリ合うという深い精神的な欲求を抱えていることを、私は知りました。そして今、雨後の筍のように世界中に姿を現した新しいプロジェクトの数々は、どれも、その深い人間的ニーズに応えようとする試みに他なりません。何百万というローカル・フードのプロジェクトから、ローカル・ビジネス連合、ローカル金融、ローカル再生エネルギーのプロジェクトまで・・・。


こうした国際的なローカリゼーション運動を一層強化していくためには、政治活動とコミュニティ活動の両方が必要です。これまで大規模でグローバルなものばかりを助けて、小さくてローカルなものを犠牲にしてきた政策を転換しなければなりません。そして同時に、よりよい世界を地域コミュニティからつくっていこうという、草の根運動を支援するのです。

残念なことに、多くの人々は“グローバルか、ナショナルか”という不毛な議論に囚われています。グローバリズムもナショナリズムも中央集権的で産業主義的な社会のあり方こそが、進化論的な必然だと考える点では変わりません。しかし、このように“上から下へ”という構造は、何百年もの搾取と植民地主義の上に築かれたもので、もはや、世界中の人々や地球全体のニーズとは折り合いがつきません。


人間にとってのコミュニティというニーズ、そして自然界にとっての多様性というニーズ。この両方の根本的な必要性を認めるなら、ローカリゼーションこそが残された道筋だということは明らかでしょう。だからこそ、私はローカリゼーションこそが“しあわせの経済”だ、と言うのです。 これまで四十年近くにわたって、私と「ローカル・フューチャーズ」の仲間たちは“グローバルからローカルへ”というムーブメントの先頭に立ってきました。私たちは確信しています。生態系を、社会的な絆を、民主主義を、そして経済的正気を蘇らせるための、最も手っ取り早くて、効果的な方法は何か? それは、世界中でローカル経済を育て上げることです。


私は願っています。この本を手にしてくれたあなたもぜひ、“ビッグ・ピクチャー・アクティビズム”と私たちが呼ぶ、地球的な広い視野をもつ活動に参加してくださるように。そして一緒に“しあわせの経済”の輪を広げ、人間界にとっても自然界にとっても、より幸せな世界をつくっていこうではありませんか。

2017年夏、イギリスにて ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ

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