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石木川ミュージアムからあなたへ

 

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石木川ミュージアム、それはたぶん、世界で一番小さくて貧しく謙虚なミュージアム。道端の田舎道の道端にひっそりと静かに佇む、ほとんどの人が気づかないくらい地味な、トタン壁の掘立て小屋。でも、あなたなら気づくかもしれない。そこに漂う不思議なオーラ。夏には蔦に占領されそうになるくらい、それは一見、頼りない。でも、誰も侮れない底力をもって、そこにしっかり建っている。中に入ると,あっと驚く鮮やかなピンクの壁。それはここに40年も通い続けてきた村の逞しい女性たちの愛の色。

 

壁に並ぶのは、MOMAにあってもおかしくない見事な絵画の数々。見るものは、それぞれの絵の内で、多様なモノやコトや生きものたちが織りなす物語の中へと引き込まれる。そこには、「村などはとるに足りず、その外の広い世界にしか生はない」という神話を軽々と突き破るパワーが秘められている。アーティストのホーちゃんは、その広い世界によってダムの底に沈むことを宣告されたこの故郷の村で、今も暮らしを営み続ける13軒の家の一つで生まれ育ち、これらの絵を生み出してきた。そして彼女は今、自分のアートの次なるステージに向けて、村の中に藍色のアトリエを準備している。

 

この世にもちっぽけで美しい窓から見えるのは世界で一番悲しくて醜くてバカバカしい風景。そこに展開するのは、もうとっくに馬脚を露わしてしまった時代錯誤の進歩信仰。土建業界を潤すためにだけ、初夏には蛍が舞う、小さく美しい清流にあまりにも巨大な図体をした無意味なダムをかけるための工事が進む。工事推進派は、もう何一つ説得的な言葉をもっていない。ただボソボソと、半世紀前に決まったことだから、と繰り返すのみ。窓からその哀れな人間の営みを眺められるミュージアムは、今も自然破壊が急速に進むこの美しい惑星の運命を私たちに突きつける。このミュージアムは、人間というものについて、自然について、地球について思いを馳せる居間であり、教室なのだ。

 


他のミュージアムと同様、ここでもちゃんとグッズが買える。ホーちゃんのアートをあしらった絵葉書、カレンダー、手ぬぐい、缶バッジ・・・。そこに書き込まれたメッセージは“YES, ISHIKI RIVER!”。そう、ミュージアムは単に、何かにNOと言ったり、反対するためにここにあるのではない。その存在そのものが絶対肯定。それは、村を、コミュニティを、一人ひとりの生を、見返りのない愛によって人間の暮らしを支え続けてきた自然を、丸ごと肯定し、抱擁するYES!だ。あちこちから集まっては、小屋の修繕をしたり、掃除をしたりするボランティアたちもいる。確かに、ここには昔のような賑わいはないだろう。ここに通い続けて、窓の外の哀れな暴力をじっと見据えて、しかし朗らかな笑みをもって、お金の暴力に対してただ愛をもってひたすら対峙してきたお婆ちゃんたちは、1人また1人と大自然の懐に還られた。今は98歳のおばあちゃん1人が亡くなった仲間たちの思いをも抱いて通ってくる。ピンクの壁の中に座るその姿の小ささ、立ち居振る舞いのエレガントな遅さ、そしてその微笑みの麗しさこそ、このミュージアムが誇る最高の宝物。

 

たぶん、世界で一番小さくて質素で美しく、最も醜い窓からの風景を誇る、この世にまたとない美術館、石木川ミュージアム。あなたなら、気づいてくれるかもしれない。それに恋した私たちFIRM(石木川ミュージアム友の会)の合言葉は、“YES, ISHIKI RIVER!”。あなたなら、このYES!に連なってくれるかもしれない。



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