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執筆者の写真信一 辻

りょうさんとジャズ談義 in クリスマス

いよいよ、今年もあと数日となった。今年の初めにぼくの持っているLP、CD、カセットテープでジャズのみを、ABC順にすべて聴いていくと決めて、間もなく一年、ぼくは今やっと、Jackie Mcleanを聴いている。


 ぼくが彼のライブ演奏をワシントンDCの寂れたダウンタウンの小さな店(いや、あれは店というより、貸しスタジオみたいな雰囲気だったが)で見たのが、1978年だったと思う。その頃はもうジャズはすっかり下火で、白人エリートや観光客が集う橋向こうのジョージタウンのクラブで、ジャズやブルースのレジェンドたちが時々演奏するくらいだった。ミルト・ジャクソンのライブを、結構高い金を、ちょっと無理して払って聴きにいったのは、そんなクラブの一つだった。

 しかしよくよく見ていれば、ビルの壁やガラス窓にベタベタ貼られたチラシの中に、ふと、掘り出し物を見つけることもあった。あのジャッキー・マクリーンみたいなレジェンドの演奏会の、拙い手書きの知らせを見つけることもあったのだ。行ってみても、こんな小さなヴェニューなのに、集まっている人は少ないし、実際に彼が姿を現すまでは、まさか、同姓同名の人のライブじゃないよな、などと心配したものだ。

 でも現れたのは本物だった。彼が終始不機嫌そうで、ニコリともしなかった、ということだけは覚えている。若い二人(一人は日本人だったと思う)とのピアノレスのトリオで、演奏の途中で、これは彼の元で修行している弟子たちとの練習の場なのではないか、と思った。単なる演奏家ではなく、黒人運動の活動家で、黒人史の研究家でもあったというマクリーン。その彼を、ジョージタウンではなく、さびれたダウンタウンの、色気もなにもない場所で聴くということに、かえって何らかの意味があるのではないか、と思えてきた。ぼくも彼の学生になって、彼の講義に耳を傾けるような気分で、どちらかといえばぶっきら棒な演奏に聴き入ったものだ。そう、ここで、マル・ウォルドンとの「レフト・アローン」を期待してはいけないのだ、と。

 アルバムLet Freedom Ring の中のMelody For Melonaeはすばらしい。ビリー・ヒギンズのドラムとの掛け合いがたまらない。なんども聴いてしまう。こんな調子じゃ、年明けまでに、ミンガスまでは行けそうもない。そしてその後には、モンクが控えている。それが終わる頃には、春の兆しが見え始めているかもしれない。


 24日にナマケモノ倶楽部の仲間、りょうさんからメールが来た。時たま、二人でこうしてブラック・ミュージック談義に花を咲かせるよき友である。

 以下は、彼とのやりとりを見てみたいという物好きのために公開する。話が偉大なるジョン・コルトレーンについてだと聞けば、興味のある人もいるだろう・・・か。




<12月24日 りょうさんからのメール>


コルトレーンを追いかけて、昨晩仕事帰りに渋谷に行ってきました。『チェイシングトレーン』です。全く素晴らしい映画でした!

ジーンときました。ところどころ涙がでそうになりました。

コルトレーンは、真面目で優しい人だということは、音色を聴いて確信していましたがやっぱり想像してたとおりの人でした。お金がない時、娘に靴を買ってあげたいために、電車に乗らず歩いて帰ってきたこととか、来日した際に、長崎に行って献花して手を合わせてるシーンとか、感動することばかり。

人の悪口は言わない。温厚、しずか。真面目、練習熱心。人の悲しみに寄り添える。

いろんな人がインタビューに応えていて、サンタナやビル・クリントンも大絶賛してました。皆んなコルトレーンが大好きなんですね。

マイルス、モンク、チャーリー・パーカーや、ディジー・ガレスピー、ソニー・ロリンズ、エルビン・ジョーンズ、ジミー・ギャリソン、マッコイ・タイナーも出てきて、お宝映像です。 


「至上の愛」の未公開?ライブ。初めて観ました。

神様になんかしてもらおうという祈りでなくて、逆方向。神に対しての感謝、祝福、賛美。だから至上の愛なんだなあ、と。僕は、天国にいったときそこに流れているのは、モーツァルトの音楽だろうなと思っていたのですが、至上の愛かもしれません。

さらに凄いのは「至上の愛」の後、頂点を極め、ここで終わりかと思いきや黄金のクインテットを解散。フリーというかコルトレーンの音楽に突き進んでいく。これぞコルトレーンの真骨頂。

いったんバラしたあと再構築。う〜ん、辻さんから教わった「アンラーン」という言葉を思い出しました。

「アラバマ」という曲も久しぶりに聴きました。哀しみに満ちた心を打つ名曲ですね〜。

『チェイシングトレーン』は年内までやってるんじゃないかな。まだご覧になっていかなったら必見です。

愛と勇気を貰えます。人を幸せにする音楽ですね。

1/14からは今度は、「MONKモンク」「モンクインヨーロッパ」が上映されます。

これも見逃せません。

良いクリスマスを。

竹内良一



<12月25日 辻信一からりょうさんへのメール>


今、ナット・キング・コールのクリスマス・アルバムを聴いてます。その最初の有名なクリスマス・ソング 「Chestnuts Roasting on an Open Fire」が、ぼくの40年来の、ジョンとヨーコのクリスマスと並ぶお気に入り。

まだ人々が貪欲と孤独のパンデミックに覆われる前の“古き良き”アメリカ(少なくとも中流白人にとっての)ですね。

ナットキングコールは白人向けの音楽だったとか、いろんな批判があるでしょうけど、やっぱり、めちゃくちゃうまいよね。死後、娘のナタリーが、昔のレコーディングを使ってデジタルで一緒に歌うUnforgettableも、泣かせる。父親のレパートリーをナタリーが歌いまくるUnforgettableは、名盤ですよね。


コルトレーンの『チェイシングトレーン』、実は観たんです、しかも公開最初の日に!

ぼくもなんか書きたいなと思っていたんだけど、りょうさんがなんか全部言ってくれたような感じです。


そうそう、モンクの映画もついに来ちゃいますね!


モンクといえば、『ジャズロフト』という二ヶ月前くらいに観た映画が、またいい。MINAMATAでまた話題のユージン・スミスの話が軸なんだけど、そこに、なんとモンクが出てくる。その同じビルの、ユージンの前の部屋で、3週間にわたって、タウンホールでのモンク・オーケストラのコンサートに向けて、ホール・オーヴァトンと練習を積む様子が見事に描かれている。とはいえ、その材料は、ユージンが偏執狂のごとく録りまくっていた音と、写真だけ。映画によると、ユージンはなんと自分の部屋の天井に穴を開けて、マイクを突っ込んで、セッションが行われている真上の部屋の音を録っていた。その音がいいのでびっくり。

それだけでも見る価値のある映画です!


MINAMATAといえば、実は昨日は、久しぶりに、松元ヒロさんの「ひとり立ち」を観に紀伊国屋ホールに行ってきたんです。そこは、ガキの頃に、悪ぶって徘徊していたあたり。いつも、紀伊国屋が真ん中にデーンと大きな島のようにあって、ぼくには実に頼もしい存在だった。そして、一度、ぼくの『ぶらぶら人類学』の出版記念会を上野宗則さんがやってくれたあの紀伊国屋ホール。そういえば、あの時も、ヒロさんが“友情”出演してくれたっけ。

昨日の舞台で、ヒロさんが繰り広げるいくつかのお話の最後を飾ったのが、なんと映画『MINAMATA』とユージンについてだった。

今回の公演の締めは、映画のクライマックスにも使われたあの有名な母と胎児性水俣病の娘さんの入浴のシーン。それをヒロさんは一人で演じて、最後はスポットライトの中、子どもを腕に抱いている神々しい姿が、ゆっくりと闇の中に消えていく。すごかった。


では、引き続き、良きクリスマス休みを!


映画「ジャズロフト」公式サイト



<12月26日 りょうさんからのメール>


音楽ネタは、僕のツボにハマってしまうのでメール長くなってしまいます。

昨晩は、書きかけで寝落ちしてしまいました。

ナット・キング・コール師匠の「The Christmas Song」は、僕も大好きな曲です。

・・・ベルベットボイス。声聴いているだけでうっとりですねえ。

シナトラに対向できるのはナット・キング・コールしかいないと思っています。あっ、トニーベネットがいたか。

話がいきなり飛んじゃうけどトニーベネットは、今認知症だそうです。それでもレディ・ガガとデュエットで歌うときはかくしゃくとしている。音楽(歌)の力は偉大です。

話戻って、高校生の頃から、ナット・キング・コールのモナリザや、Too Young、プリテンドなんかは弾き語りで歌ってました。プリテンドの詩なんか大好き。当時の僕には英語が難し過ぎてレバートリーではなかったけど、Unforgettableも慕情も、月光値千金も大好きです。

ナット・キング・コールがジャズピアニストだと知ったのは大学生になってからです。

こういうアメリカは好きだなあ。


焼き栗の思い出。僕は焚火も栗も大好き、タキビスト。秋の千曲川の河原で焚火で栗焼いたことあります。最高に美味しいですね。

話が更に逸れますが、須坂の隣町の小布施は、母方の実家。栗の里で有名、おじいちゃんは天才和菓子料理人でした。子供の頃の小布施の思い出は、姉と一緒におじいちゃん家の裏の栗林でズックで栗のイガイガを剥いて中の栗を取り出して遊んでいたこと。栗は故郷の味なのです。おじいちゃんは遊び人でもあったので一代でお店潰しました。


僕の好きなクリスマスソングは、「The First Noel♪」シナトラバージョン。和名は、まきびとひつじを。賛美歌ですね。

それと、これはクリスマスソングなのかどうかは分からないんだけど、「My Favorite Things 」。なぜ好きかというと、小学生の頃、母親が初めて僕にクリスマスプレゼントとして買ってきてくれた森山良子さんのクリスマスアルバムの中にこの曲があったからです。母がくれた唯一のレコード。うちは、とても貧乏だったのでクリスマスプレゼントの余裕なんてなかったのです。歌詞がいいなあと。


バラをつたう雨だれや 子猫のひげ ピカピカの銅のやかんや あったかい羊毛のふたまた手袋 紐で結ばれた茶色い小包 それがわたしのお気に入り

何気ない暮らしの中にある可愛らしいもの。


悲しい気分のとき、好きなものを思い浮かべると悲しい気分じゃなくなると。これは今もふと思い出いだしてやっていることです。


その後、コルトレーンがこの曲を吹いてくれて、ますますこの曲もコルトレーンも好きになりました。


あまり良いことがなかった少年時代に、一年に一度だけ須坂教会から送られてくるクリスマスカードがどれほど嬉しかったことか。母親はクリスチャンだったので、わけも分からす日曜学校に通っていたのです。牧師先生の退屈な話なんか聴かずに教会の庭を走り回っていました。話長くなってきたので、とりあえずここまで。


> コルトレーン、実は観たんです、しかも公開最初の日に!ぼくもなんか書きたいなと思って

> いたんだけど、りょうさんがなんか全部言ってくれたような感じです。


これめちゃ嬉しいです。嬉し過ぎです。

モンクの話は、更に長くなるのでまた後ほど。


ありがとうございました。

りょう



以下は、映画『チェイシングトレーン コルトレーンを追いかけて』と、映画『ジャズロフト』の公式サイトより


ジャズ界史上最大のカリスマと称されるサックス奏者ジョン・コルトレーンの、短くも求道的な人生を描いたドキュメンタリー。わずか40年の生涯でありながら、ジャズのみならずアメリカ・ポピュラー音楽の歴史に多大な影響を与えたコルトレーン。レコーディングの機会に恵まれなかった不遇なキャリア初期、恩師マイルス・デイビスのバンドへの抜てき、薬物とアルコール依存症を乗り越え才能を開花させた1957年、そこから約10年間で数々の名盤を生み出していく姿を、コルトレーンに影響を受けたアーティストたちの証言や貴重な映像の数々を元に振り返る。さらに、これまであまり語られてこなかった彼の家族やプライベートについても描く。オスカー俳優デンゼル・ワシントンがコルトレーンの声を担当。Netflixでは「コルトレーンを追いかけて」のタイトルで配信。

2016年製作/99分/G/アメリカ 原題:Chasing Trane: The John Coltrane Documentary

ユージーン・スミスの住むロフトで繰り広げられた、 ジャズ・ミュージシャンたちの熱狂のセッション

写真家、ユージーン・スミス(1918-1978)。戦場カメラマンとして活動後、当時絶大な影響力を誇った雑誌「ライフ」などで意欲的な作品を数多く発表、70年代には水俣病患者を捉えた写真集によって世界に衝撃を与え、のちにジョニー・デップ主演『MINAMATA―ミナマタ―』として映画化もされた。そんな彼が1950年代半ばから住んでいたマンハッタンのロフトには、連日連夜様々なジャズ・ミュージシャンが出入りし、ジャムセッションを繰り広げていた。「ライフ」編集部との軋轢や家族の不和を抱え、逃げるようにこの地へ移り住んだスミスは、ただ純粋に音楽を楽しむためだけに集まった彼らの自由奔放な演奏をつぶさに録音し、シャッターを切ることに没頭する。そのむせ返るような熱気を余すところなく伝えるのがこのドキュメンタリー映画『ジャズ・ロフト』である。


知られざるアーティストからセロニアス・モンクら大物まで 彼らの自由な演奏が、天才写真家の運命を変えた


花屋の問屋街に位置する5階建ての薄暗いロフトに集まったのは既に絶頂期を迎えていたセロニアス・モンクや作曲家・ピアニストとして名を馳せる前のカーラ・ブレイをはじめ、ズート・シムズ、ホール・オーヴァトン、ロニー・フリーといった名うてのミュージシャンたち。彼らの一挙手一投足を逃すまいと部屋中に録音用の配線を張り巡らせ、何千枚もの写真を撮るスミス。このユニークなコラボは8年間にわたったという。単なる記録の域を超えて浮き彫りとなるのはジャズ・ミュージシャンたちの圧倒的な存在感、刹那的な生き様、そして彼らとの交流を通して、人生の岐路に立たされていたひとりの写真家が抱く新たな決意。また歴史的な報道写真の数々を生み出してきた暗室での孤独な作業やユーモアと気難しさを併せ持つスミスの複雑なパーソナリティが多くの証言者によって明かされる。さらにはのちにタウンホールでの名演として結実するモンクとオーヴァトンのリハーサルや打ち合わせ風景など、今まで公になることのなかった貴重なやりとりも注目のひとつ。まさに今その場で起こる奇跡に立ち会っているかのような臨場感を存分に堪能できる。


出演:サム・スティーブンソン、カーラ・ブレイ、スティーヴ・ライヒ、ビル・クロウ、デイヴィッド・アムラム、ジェイソン・モラン、ビル・ピアース (以下、写真/声のみ)セロニアス・モンク、ズート・シムズ、ホール・オーヴァトン

プロデューサー:カルヴィン・スキャッグス、サム・スティーブンソン│編集:ジョナサン・J・ジョンソン│撮影:トム・ハーウィッツ│録音:ピーター・ミラー│脚本・プロデューサー・監督:サラ・フィシュコ 配給・宣伝:マーメイドフィルム コピアポア・フィルム│宣伝:VALERIA 原題:The Jazz Loft According to W. Eugene Smith 2015年│89分│イギリス│英語│B&W、カラー│ヴィスタサイズ│5.1ch




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