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土の劣化が戦争を招く

毎日、パレスチナのアグロエコロジスト、サアドのことを想っている。彼は、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区に住み、オーガニック農業を営む傍ら、教育者としてパレスチナ内外でアグロエコロジーを教え、広めている。彼の夢は、砂漠化したかつての「肥沃な三日月地帯」が、森と緑の沃野として再生(リジェネレート)することだ。イスラエルによる占領が、パレスチナ人から水と土への自由なアクセスを奪おうとするものだったことを、改めて考えてみよう。すると、パレスチナの人々の苦難が決してぼくたちとも無縁ではないことに気づくだろう。



サアドは彼の畑を「ヒューマニスティック・ファーム」と呼ぶ。人間らしい農的な営みとは?。今、世界中がそれを問われている。


以下、土の劣化と戦争とながりを説く土壌学者のインタビューを紹介する。


 

いまなぜ土が「アツい」のか 土壌学者が語る「土・貧困・未来」の深い関係

19-05-07 朝日新聞

土壌学者 藤井一至


■土の劣化が戦争を招く?

――使えない土地が増えると、残った土地の奪い合いになりそうです。

ふたつのシナリオが考えられると思います。ひとつは農耕地が減り、農作物の価格が上がるということまで見越して、あらかじめ土地を買い占めるお金を持った人が出てくるということ。これは、世界で最も肥沃なチェルノーゼム(黒い土)があるウクライナやカナダなどで、もう実際に出てきている動きだと思います。もうひとつは、お金を持っていない人たちが、残った土地を奪い合う戦争のようなことが起きるかもしれないということです。


――土をめぐる戦争ですか。

もともとドイツやロシア、イギリスなど、土があまり肥沃でない地域から、肥沃な土のある地域に侵略していった時代があったわけですが、その背景は食糧不足でした。現代でもシリア内戦の背景には、大規模で長期的な干ばつと、それによる食糧難というのがありました。もちろん単純にそれだけではないんですが、それが引き金のひとつになって、内戦が起きている。そうやって土と、そこからできる食糧が戦争や貧富の差の原因とかになっているということは言えると思います。


――確かに土の劣化が、文明の衰退を招くと指摘する研究者もいます。

たとえばメソポタミア文明は、乾燥した砂漠で、大河から水をもってきて灌漑をすることで成立していた文明です。灌漑用の水が、土を肥沃な土に変える生命線だったんです。それが、どんどん上流の木を切った結果、洪水が起こるようになり、灌漑がうまくいかなくなって塩類集積の問題が起きたことが過去の研究で分かっています。

土が悪くなると、食糧が不足して、その結果、人と人が、限られた食糧を奪い合う戦争が起こると思うんですけど、その次の段階には、奪い合う食糧すらなくなって、文明が衰退するということがあるのかもしれません。


■土を大事にする農業を

――解決策は、なにかあるんですか?

いま一番大きなトレンドは、「不耕起」農業ですね。これは、今年、日本国際賞をとられたラッタン・ラルさん(米オハイオ州立大特別栄誉教授)が提案しているものですが、土を耕すと、有機物を含んだ部分が風で飛ばされたり、雨で流されたりしやすくなるので、耕すのをやめ、土を稲わらなどで覆って大事にしようというものです。

そうやって土の中に有機物を含んだ黒い層を増やせれば、地球温暖化の原因になっている大気中の二酸化炭素の濃度の上昇を止めることもできるし、収穫も上がると言うんです。10年間で3%増やすことができれば、1ヘクタールあたり5万円の経済的価値があるという試算もあります。

ただ、完璧な農業というのは世界にはなくて、ひとつひとつ現状とすりあわせていく必要があるんです。たとえば日本で「不耕起農業をしてください」と言っても、「病気がはやるんじゃないか」とか、「雑草が繁茂するんじゃないか」ということでやってくれない農家も多いと思います。

大事なことは、土を大事にする理想に向かって進むこと。日本でも「最小限の耕し方で土を保全しましょう」と言えば、多くの人が納得してくれる思うんです。そこで、日本なりのやり方を見つけていけば、土をよくするということまでは言えないですが、かなり持続的に未来まで受け渡すことはできると考えています。

また、乾燥地では、無理な農業をするとどうしても塩類集積の問題が起きます。それに比べれば、日本は水もありますし、その割には土もそこそこいい。非常に豊かな環境にあるわけで、できる限り農業に使っていくべきではないでしょうか。


――そんなに大事な土ですが、あまり関心を持たれてこなかったように思います。

たとえば水って日頃から口にするから、「水は大事だ」と言われると意識しやすいんです。土って、食材を介して初めて分かるもので、直接は食卓に並ばないので、分かりにくいところがありますね。


――変化もゆっくりですし。

そうですね。農家にとってすら、見えにくい。土づくりに力を入れても、あした突然収穫量が上がるわけでもないし、逆に酷い使い方をしていても、収穫量が突然下がって作物が取れなくなる段階までは、ふつうの顔をしています。土の劣化ということを目でずっと見ることができないことも、私たちが土に対して敏感になれない原因のひとつでしょうね。

でも、私が永久凍土の調査に行っているカナダ北部の地域では、しおれた白菜が1800円もするんです。農業をするための土がないことが、それだけ食卓なり、財布なりに響くんです。

私たちはいま日本で暮らしていると、土があって、黒くて、そこに種さえまけばおいしいものがとれるのが当たり前なので、どうしても土のありがたみが分からないですけど、これを全部を失った先には、しおれた白菜に1800円払わなくちゃいけない未来が待っているということは、頭の片隅に置いておいてもいいんじゃないかと思います。


――いま、土いじりを始めたいと言う人が増えているように思うんですが。

土いじりって実は厳しい世界です。いま日本で農家の人口は全人口の1.4%ぐらいですから、土いじりできるひとってすごく限られているんです。多くの人が素人になってしまっていて、ゼロからのスタートなんです。義務教育で土のことなんて教えないですし。

だから私が土のことを広めたいなと思うのは、もう少し土のことを知っていれば、ものが育つ充実感というのはかけがえのないものがあるからなんですよね。そういうところから、土いじりが楽しいなと思ってもらえればいいなと思っています。


ふじい・かずみち 1981年富山県生まれ。京都大学大学院などを経て、森林研究・整備機構森林総合研究所主任研究員。著書に『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』(山と溪谷社)など。

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