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小林武史との対話 (その1)    辻信一

7月31日に音楽家で環境活動家の小林武史さんとオンラインで話をさせてもらった。その記録はap bank のサイト上のインタビュー・シリーズ、a sense of Rita」に掲載されている。その一部を、このブログにも転載させてもらいたいと思っているうちに、朝日新聞土曜版「be」の「フロントランナー」欄に小林さんが登場、三面に「場を生み出すミュージシャンであり続ける」という長いインタビューも載っている。今日はまず、一面のリードにあたる文章を紹介しよう。そしてその後、二回に分けて、小林さんとぼくとのやりとりを連載する。


朝日の記事でも触れられている、木更津の「クルック・フィールズ」に、ぼくは去年の暮れ、ナマケモノ倶楽部の仲間と訪問、小林さんとスタッフの方々、パーマカルチャーと生態再生の側面からプロジェクトを支える四井真治さんに、ゆっくり案内していただくという実に贅沢な時間を過ごした。そこでの実感をもとに思うのは、クルック・フィールズが小林さんのこの20年の活動と思索の集大成であり、ライフワークだということだ。今後もぜひ注目し、またぼくたちなりの協力、連携の形を模索したいと思う。まだの方はぜひ。


その訪問の際の写真も見ていただこう。


 

「持続可能な未来のために」(朝日新聞、9月26日)


サステイナブル(持続可能)な未来のために、何ができるのか。そんな思いで多様な「場」を立ち上げてきた。

非営利団体「ap bank」では環境プロジェクトへの低利融資を10年ほど続け、野外音楽イベント「ap bank fes」では、音楽に加えて環境問題を聴衆に発信し続けた。2017年と19年には東日本大震災の被災地で芸術祭「リボーンアート・フェスティバル」を開催。計約70万人を復興途上の被災地へと向かわせた。

そして昨秋、自身が「一つの集大成」と語る施設を千葉県木更津市に開業した。農業と食とアートを融合した複合施設「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」。約30ヘクタールという広大な敷地内に、有機野菜の農場や水牛やヤギが暮らす畜舎と鶏舎、レストランやベーカリーがある。丘陵の中腹には現代アートの大家、草間彌生の作品がそびえ立ち、農場も芸術なのだと訴えかける。

「サステイナブルな営みを体感できる場を」という自身のビジョンを具現化した、という。土地の開墾に始まり、農業や畜産の技術者、森林や環境デザインの専門家たちの知恵を借りながら、10年かけて完成した。「訪れる人たちには人間も自然の一部だと実感し、その心地よさを感じ取り、ビジョンに共鳴してもらえたらと思います」




本業は、日本を代表する音楽プロデューサーである。1980年代後半からサザンオールスターズMr.Childrenなど名だたる人気ミュージシャンの名曲を世に出し続けた。90年代には岩井俊二監督「スワロウテイル」の音楽を手がけるなど活動を広げ、大成功を収めた。

だが同時に戸惑ってもいたという。「富を得て、経済偏重主義が社会を覆う危うい空気も感じていました」。そして2001年。制作拠点を置いた米国で同時多発テロが勃発。その衝撃から、すべての人が共存できるシステムを考える勉強会を、音楽仲間たちと重ねた。学びのすえ、音楽的成功で得た富の振り向け先として「サステイナブルな未来」に行き着いた。

この春はコロナ禍で「KURKKU FIELDS」も営業を大幅に縮小した。不安に包まれた東京から木更津に向かえたのは5月半ば。だが、農業や畜産を担う現地スタッフたちの表情は明るく、驚くほど元気だった。

「野菜や鶏は日々、命をはぐくみ、人の命を支えてくれる。命の循環に直結した営みだと実感したそうです。まさにこの場のビジョン。僕までうれしくなりました」

サステイナブルな未来が、見え始めている。

(文・浜田奈美、写真・川村直子)





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