食糧危機とは何か?

去年の11月以来、4回目となるメノビレッジでの滞在。時には農作業を手伝い、パン焼きを習い、そこに住む、あるいはそこへとやってくる友人たちと語り合い、焚き火をして、食卓を囲み、祈る。友人たち3人とともに訪れた今回の旅では、取材に来ていた新聞記者と並んで、レイモンド・明子夫妻をはじめ、農場とその周囲に広がるコミュニティの人々への動画インタビューをさせてもらった。それに加えて、この春から毎週、レイモンドに自分の半生を辿ってもらうインタビューもオンライン・オフラインで続けてきた。


それらすべての中から、何かが、まだこれこれと定義できない何かが、しかし、確実に生まれ、形をなしつつある。ぼくの直感では、とても重要な何か。それを必要とする人々に向けて、少しずつその何かを届け、共有するために、できることをしていこう。急ぎたくなる気持ちはある。でも慌てず、スローに。




今回の滞在中に、レイモンドがシェアしてくれたGRAINの英文記事がある。重要だと思うので、ぼくなりに翻訳してみたので読んでほしい。ウクライナ侵攻とその後の経済制裁合戦という目先で起こっている事態に目が行って、右往左往しがちだが、やはり、ビッグ・ピクチャーを見なければならない。「食糧危機」や「エネルギー危機」で不安を煽る側には、そうする理由がある。ぼくたちはしかし、冷静に、それらの”危機”なるものの本質を見極めるのだ。



 

食糧危機と食糧危機のあいだをよろめく世界

Lurching from food crisis to food crisis

by GRAIN|2022年7月8日

(文中にあるグラフは省略。見たい人は、元の記事(英語)を参照のこと)


権力者たちは、いつになったらメッセージを正しく理解するのだろうか? 世界が深刻化する食糧危機(専門家によれば過去15年間で3回目)に直面するなか、6月末にベルリンで開かれた「世界食糧安全保障のための結束」会議のように、多くの政府が集まれば、強力で賢明な行動が生まれると思う人もいるだろう。しかし、実はそうではない。賢明な行動どころか、いくつかの新しい協力関係がつくられ、テーブルの上に前よりちょっと多くのお金が置かれただけで、あとはおきまりのやりとりばかり。危機を好転させるために必要なこと案や行動など、どこにもないのだ。


この数週間、多くの新しいデータと分析が発表され、何が起きているのか、どう対処すべきなのかをよりよく理解できるようになった。以下、私たちがそこから学ぶことのできる重要な事柄を紹介していこう。


食糧不足の危機ではなく、食料価格の危機

食糧価格は、エネルギー・コストの上昇とともに、(またそのエネルギーコスト上昇も一つの原因となって)世界中で上昇している。こうした価格上昇は、貧しい人々や弱い立場の人々を最も苦しめている。しかし、食糧が不足しているわけではない。中国やインドのように、食糧安全保障戦略として十分な食糧備蓄を行っている国もある。そうした備蓄は当然の権利として許されるべきだろう。ところが、世界貿易機関(WTO)では、食糧備蓄や輸出禁止が自由貿易をどう歪めているかについて議論を続けている。


問題なのは、ますます工業化された食糧システムがうみ出す専門化、過剰生産、膨大な量の食料廃棄のほうなのである。今や、ヨーロッパで生産される小麦の約60%が家畜の飼料になり、米国で生産されるトウモロコシの40%が自動車の燃料になる。世界的に見ると、大豆の80%が家畜の餌になり、パーム油の23%がディーゼル燃料になる。ベトナム、ペルー、コートジボワール、ケニアなどの国々は、コーヒー、アスパラガス、カカオ、花など、生存そのもの関係ない農産物の栽培と輸出に膨大な資源を投入している。一方、栄養がまったくないジャンクフードの原料作物の生産には、世界中で数え切れないほど広大な土地が使われている。世界的に見れば、生産量が不足しているわけではないのだ。それなのに、食料価格が高騰し、労働や流通をめぐる問題が深刻化している。


残念ながら、食糧大手のロビー団体はこの危機を利用して、農業政策改革や気候変動対策を後退させようと、食糧増産の必要があると主張している。持続可能な農業を目指す欧州連合(EU)の「ファーム・トゥ・フォーク」という新しい戦略も、こうしたロビー団体からの圧力によって行く手を阻まれている。また、食糧危機を受けて、C O2排出量削減のためにバイオ燃料の使用を義務づける政策を撤回して、農作物を食糧として利用できるようにするべきではないか議論も多くの国で起こっている。(その一方で、燃料価格の高騰により、ブラジルなどではバイオ燃料の生産が再開されつつある)


食糧危機の原因は、ウクライナ戦争よりもっと根深く、構造的

多くの政治指導者は、食糧危機をロシアのせいにしているが、それイデオロギー的な目的のためだ。ロシアが、現在、ウクライナからの穀物、油糧種子、肥料などの輸出、また自国からの輸出をブロックしているのは事実である。(欧米諸国は、これらの商品は制裁の対象外だと主張している)。しかし、ロシアやウクライナの小麦やひまわり油は、他の産地や他の種類の穀物や油で代用することができる。より深い問題は、エジプト、セネガル、レバノンなど、輸入をこの2カ国に強く依存している国があることだ。これらの国々は、長期的には代替策を見つける必要がある。できれば、自国の小規模農家を支援して多様な地域農業システムを構築し、地域市場を強化することだ。


約20カ国が、小麦の半分以上をウクライナとロシアから調達している。そして、たった7カ国とEUとで、世界の小麦輸出の9割を占めている。とすれば、わずか4企業(アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド、ブンジ、カーギル、ルイ・ドレフュス)だけで、小麦貿易の大部分を担っているのも不思議ではない。ウクライナ戦争による混乱もあるだろうが、飢餓人口が最も増えているのは、アフガニスタン、イエメン、シリア、エリトリア、ソマリア、コンゴ民主共和国など、自国の中に紛争を抱えている国に集中している。これはウクライナの状況とは関係がない。「アフリカはウクライナの小麦など必要としていない」と、マリの農民指導者イブラヒマ・クリバリは最近断言した。クリバリは、西洋の農業帝国主義がウクライナ戦争を口実として、南の国々の森林、農地、食の多様性を破壊しようとしていることに憤慨しているのだ


投機こそが問題なのだ

現在入手可能なデータを見れば、現在の食料価格の危機はウクライナ戦争から始まったのではなく、より広範な問題の結果として生じたものであることがわかる。これらの問題の中には、コロナ・パンデミック(国際的なサプライチェーンに混乱をもたらし、今ももたらしている)、気候危機、金融市場における投機などが含まれる。グラフ1は、食料価格が、安定してかすかに増加している生産量や供給量の変化と、無関係に激しく上下動していることを明確に示している。なぜだろうか。その理由の一つは、投資家(銀行、年金基金、個人を問わず)が、将来の商品価格に賭けることができるファンドの株を買っており、それが現実世界の商品価格に影響を及ぼしているからである。これはよく知られていることで、各国政府も知っている。実際、2007年から2008年にかけての食糧危機や金融危機で起こったことと似ている。問題は、こうしたファンドを規制しようとする動きを、アメリカやヨーロッパなどの影響力のある市場で、金融業界自体が妨害していることだ。このような商品投機は、現在、中国の証券取引所でさえ摘発されている。


政党や市民運動団体は、金融投資家が保有できる商品契約の数に制限を設けるよう求めている。これが、私たちにできるせめてもの抵抗だ。ここ数カ月で価値の半分以上を失った主要な暗号通貨ビットコインから逃げ出した投資家が、現在、金儲けのために農産物への投資に移行しているといわれている。そこで、こうした金融取引に課税したり、商品市場からの自主的な撤退を優良投資家としての資格を満たす条件にすればいいという意見もある。しかし、それにしても、これらの市場がそもそも透明性を欠いていることが、大きな壁となるだろう。


結果として、食糧不足が生じる

世界中の農家は、グラフ2に見られるように、化学肥料を中心とする投入資材の価格の2倍、3倍という高騰に直面している。さらに、農家が投入資材を購入するために通常借り入れるクレジット金利の上昇や、農家にとってもう一つの主要な投入資材である燃料の高騰が、この問題に拍車をかけている。多くの農家は投入資材を削減せざるを得ず、その結果、収穫量が減少することになる。消費者もまた、高騰する食料生産コストを負担することはできない。その結果、食糧システムは、その両端から壊滅的に崩壊してゆく可能性があるのだ。


短期的には、政府が基本的な食品に補助金を出す必要がある。そうしなければ、最近エクアドルで見られたように、人々はますます街頭での抗議活動に立つようになるだろう。しかし、難しい問題は、多くの政府がすでに多額の負債を抱え込んでいることだ。食料への補助金といった政策は、I M F(国際通貨基金)のような公的融資機関であれ、ブラックロックのような民間投資会社であれ、債権者たちからの非難を受けないわけにはいかない。


仮に投入資材の高騰がなかったとしても、気候変動による天候の乱れや異常気象の頻発は、すでに食料生産をより複雑で困難なものにしている。インドでは、熱波によって穀物の収量が低下し、食料価格が上昇している。ケニアや米国では、家畜が気候変動に起因するストレスのために死んでいる。世界各地で土壌が破壊され、食糧供給に対するリスクが高まっている。したがって、食品を保証するための補助金を求める当面の闘いだけでは十分ではない。それと並行して、農業のあり方を転換し、化学物質への依存からできるだけ自由になるための行動をとる必要がある。気候の危機に対処するためにも、それは緊急に必要なことなのだ。


問題を解決することは可能だ

では、どうすればよいのだろうか。多くの政府や中央銀行が、金融政策によってインフレを抑制する一方で、社会的セーフティネットによって人々への影響を緩和しようとしている。6月下旬にベルリンで開催された「世界食糧安全保障のための結束」会議では、最も弱い立場の人々を支援し、保護するために、さらに資金を投入することに合意した。しかし、私たちが必要としているのは、より根本的で抜本的な改革だ。


☆ 金融投機に対する食料システムの脆弱性をただすことがまず優先されなければならないだろう。単に抜け穴を塞ぐような方策を練るだけでなく、特定の投資家や投資手段による食品への投資、そして投機を全面的に禁止するためにとるべき措置はたくさんある。これらを実現するための運動は、独占禁止法の施行、価格操作などの不正の一掃、食品価格の公的管理などを求める、長年にわたる市民社会の闘いと合流することになるだろう。


☆ 食料主権を確立することが、次の重要な課題だ。それは、ナショナリズムや国境、厳重に守られた備蓄、孤立主義などを意味しない。食糧システムの危機とは、そもそも、少数の商品への集中、大規模生産、画一化、そして労働者や地域社会の犠牲の上に成り立つ安価な食料生産などを実現するための、工業的で合理的な仕組み自体から生じたものなのだ。このような生産システムは、気候変動に耐えることができず、社会にも自然生態系にも甚大な被害をもたらし続ける。一方、食料主権は、持続可能な生産方法や市民の連帯に依拠している。食料主権こそ、グローバル食糧システムでの金融と大企業による支配から自分自身を守るための最良の防御策である。


☆ ラ・ヴィア・カンペシーナのような世界的な農民運動も、「女性、法、開発に関するアジア太平洋フォーラム」のような女性運動のネットワークも、国際貿易ルールや制度を再設計することによって、小規模な食料生産者や業者を支援し、「人々が食料システムを養う」代わりに、逆に、人々を本当に養うような食料システムづくりための抜本的な改革を提案し始めている。それを実現していくためには、現在の自由貿易協定や投資条約からなる体制から脱却することが必要になる。そして、貿易優先を改め、地域のローカル食料システムのニーズを優先させる仕組みをつくりだす。しかしそのためには、市民−特に若い世代と女性たち−が土地へのアクセスを確保できるよう、緊急に必要な措置を講じることも必要だ。


☆ 食糧問題に限らず、現在の危機をめぐる議論を考えれば、社会全体の目標と共通善が優先されなければならないことは明らかだろう。つまり、大企業が支配的な役割を担う現在の社会のあり方を脱け出す必要があるということだ。企業責任や説明責任について語られることはあっても、私たちが手にするのはせいぜい偽りの解決策やグリーンウォッシュ。企業の利益が上がり続ける一方で、社会や自然の破壊が進行するというシナリオばかり。化学物質や化石燃料への依存を増やし続けているのも企業に他ならない。今こそ、社会のあり方を抜本的に変えるべき時だ。


食糧システムを再構築する方法については、すでに多くのよい提案が出そろっている。しかも、それを先頭に立って実行に移そうとする社会運動の“大船団”もある。現代世界が直面しているこの食糧危機をきっかけに、いよいよ私たちはそれらの運動を結集し、本格的な行動を開始することができるかもしれない。





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