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ローカルが世界を変える日  プラネット・ローカル・サミットに集まろう!  

by ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ




(リサージェンス&エコロジスト誌 2023年5・6月号より。訳:辻信一)


過去50年にわたり、経済の根本的な変化を求める運動に携わってきた私ですが、今でもこう信じています。人類はハイテク消費文化から自然へとUターンし、強力な地域経済を基盤としたコミュニティを構築することができる、と。


長年にわたり、環境保護運動の盛衰を見てきました。活動家というのはとても大変な仕事で、友人や同僚の多くは落ち込んだり、疲れ果ててしまったりしています。しかし、私は違います。私はまだ未来に希望を抱いています。


確かに、グローバル大企業の手にこれほど徹底的に権力が集中してしまったことに、絶望感を感じるのは私も同じです。IMF体制によって押しつけられる“改革”、「自由貿易」協定の締結、大銀行の救済を最優先する政策、世界の億万長者たちに集中する巨万の富・・・。こうしてみると、確かに、世界の状況は絶望的なものに見えます。


しかし、私は同時に、強固に見えるグローバル・システムのすき間に、静かな革命が起きていることも目の当たりにしてきました。4つの大陸にまたがって仕事をする中で、私が出会ったのは、主流メディアには登場しないとはいえ、地域や経済を根底から着実に変えつつある無数のコミュニティ・グループでした。支配的なシステムにとって代わりつつある、小規模でローカルで、心を揺さぶるほど美しい代替案−―それを実現するための数々のプロジェクトを、私は行く先々で目にしてきました。


食、ビジネス、医療、文化の再生など、これらのローカルなプロジェクトは場所によって千差万別ですが、共通しているのは、人々が顔の見えるコミュニティとつながり、大地との一体性を実感できるような関係性の再構築を目指す、という点でしょう。サンフランシスコからソウルまで、インドの田舎からイギリスまで、それぞれの地域の人々が、まるで思うがままの歌い方で同じ曲を歌っているかのようです。みんな、新しい世界が草の根からボトムアップで創り出されるのを知っているんですね。


今年9月、英国の都市ブリストルで開催される「プラネット・ローカル・サミット」に、こうした人々が大挙して集まることになりました。このイベントは、現在の窮状をつくり出した大企業主導のグローバリゼーションに代わる、経済のローカリゼーションを推進する思想家や活動家が集う、過去最大のイベントとなる予定です。そこには、大地に根ざした英知、明確な政治戦略、草の根ローカル・プロジェクトのさまざまな事例、新しい世界観の種子が、結集することになります。それは、真のシステム変革の可能性を信じている人々−−私もそのひとり−−にとって極めて重要な瞬間となるはずです。


「真のシステム変革」なんて、漠然としていて、ユートピア的で、時代錯誤だ、という印象を与えるかもしれませんね。でも、どう呼ぼうと、それはすでに起こり始めているんです。時には私たちの目と鼻の先で。巨大なアグリビジネスが力づくで利益をかき集めているすぐ足下で、地域に根ざしたフードシステムや活気あるファーマーズ・マーケットは増え続けている。チェーン店の支配に対抗して、個人商店が力を取り戻しています。都市部でも農村部でも、ホリスティック・ヘルスセンターやコミュニティ・スクール、相互扶助ネットワークといった代替機関が、大企業や肥大化した政府機関よりもよりよく人々のニーズを満たすことができるということを証明しています。地域に根ざした相互扶助のコミュニティをつくり出す活発な試みは数え切れません。そこここに、地域本来の文化が生き生きと蘇りつつあるんです。人々が支え合って互いのニーズを満たし、自分たちの存在を支える地球を大切にできる、本来の文化が。


近年、特にコロナ以降、経済の地域分散に対する熱意と賛同は飛躍的に高まっています。支配的な政治経済システムは、今でも、大企業に有利な規制や規制緩和、補助金や減税などによってグローバル大企業を支援し続けています。こうした逆境のなかでも、支配的な経済とは180度異なるローカリゼーションが急速に支持を広げている。一見、華やかではない草の根からのムーブメントの高まりは、世界各地の人々の善意や良識の力、そして強力な忍耐力の証明なんです。


プラネット・ローカル・サミットは、こうした目覚ましい成果を称える場です。しかし、同時に、ローカルへのシフトを促すための社会構造の改革を要求する場でもあります。右も左も、老いも若きも、北も南も一致団結して、グローバル大企業による飽くなき利益追求に歯止めをかけなければなりません。そして、新しい経済のための政策変更を求めている、急成長中のローカリゼーション運動に力を与えるのです。それがプラネット・ローカル・サミットです。


こうした草の根運動を阻んできたのは、社会の構造についての無理解だったと思われます。民間メディアはもちろん、学界のほとんども、富と権力が上方へと移転、集中してきたことについて今も沈黙しています。一方、多くの人々はこれまでセレブ文化や広告などに気晴らしを求め、せいぜい国内政治のいざこざに関心を寄せる程度でした。


しかし、40年近くも無気力な国政が続いてきた今、人々の政治への関心が、微妙な、しかし重大な変化を遂げつつあることに私は期待しています。私はすでにそれを実感しているんです。左派にも右派にも、新しい理解が定着しつつあります。大企業や銀行が経済や政治に対してあまりにも大きな力を持っていることに、世界中の人々が気づき始めています。これまで見てきたように、大企業の力の増大は、雇用、メンタルヘルス、環境、社会的公正など、私たちの生活のほとんどすべての側面に影響を及ぼしてきました。世界経済がコロナのショックにどう対応したかを見ればわかります。前例のない富の上方移転が行われ、企業の利益が急増する一方で、中小企業は一斉に倒産に追い込まれた。そして今、私たち庶民は生活費高騰の危機を迎えている。「上げ潮はすべての船を持ち上げる」という経済学者の決まり文句がいかにでたらめだったかが証明されたのです。


一方、こういう見方もできるでしょう。グローバル経済システムには、ほとんどすべての悪いことを引き起こしてきた責任があるのだが、逆に、そのおかげで、今起こりつつあるほとんどすべての良いこともまた可能になったのだ、と。つまり、グローバルシステムが生み出した惨状から、人間と生態系の健全性を回復するという、真に意味のあるローカル運動が、今、各地で起きているのですから。



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