辻:さて、そんな名前をもつクルックフィールズの事業が始まったのはいつですか?
小林:2009年に木更津に土地を取得することになり、そこで有機農業を始めたのは2010年から。で、準備をしてきて、今年(2019年)の10月に、本当はオープンする筈だったんですけど、この秋の三連発の台風がありましてですね。千葉が被災県として有名になっちゃって。ぼくたちのところも台風15号の突風で、11日間停電ということになってしまって、オープンが一ヶ月遅れることになったんです。
辻:なるほど。あの一連の台風の凄まじさを見ても、ああ、いよいよ新しい時代に足を踏み入れてしまったなという感じがぼくにはするんですけど。そういう気候変動の時代にちょうど合わせて、これからクルックフィールズが始まっていくと。
小林:そうなんですよね。だから、強烈な「やれやれ」なんですが、でもある意味、「そうだよな」っていうか。僕らap bankつくった時も、気候変動についてこういうことがあり得るって話してくれる人もいたんですけど、その時話していたのよりも、やっぱりスピードも速いし、被害の規模も大きい感じになっているような気がします。
辻:本当に「新しい時代へようこそ」っていう感じ。
小林:そう、ぼくらボランティアとかもいろいろやっているんですけど、特にこの秋感じたのは、今回は若干ボランティアの熱が低いんですよ。これまでは、大変なことはどこにでも起こりうるから、「困った時はお互い様」という日本人的美徳もあって、ボランティアっていうのが盛り上がったんだけど、今年の秋からは、なんか災害が非日常じゃなくて、日常の風景になったんじゃないかって思うくらい。そこにスイッチが入っちゃう、そういう段階に入ったと思いません? なんとなく、そういう、重い怖さを感じます。
四井:確かに、前のような特別感はもうなくなってきましたよね。ボランティアっていうけど、本当は地域で何とかローカルに対応していける体制をつくらなきゃいけないんだけど、実際できてないですよ。ぼくは元々、治山や緑化工学を学んでいたんですけど、今はもう、本当に危険な場所に人が住んでいるんですよね。人々は自分が住んでいる場所が安全な場所なのか、これから住む場所が本当に安全に住める場所なのか、を判断できないようになっている。自分たちが自分たちで身を守るという考えが生まれ、育つということのも、ローカリゼーションの大事なポイントだと思うんですよね。
辻:なるほど、大事な指摘ですね。
辻:さて、今日はクルックフィールズの映像を用意してきていただいたので。そろそろ、見せていただきましょうか。
<映像>
小林:(タイトルにある)自然の協奏曲ですが、人間も自然の中の一部としてその中に含まれる、という意味での「協奏」です。
辻:その「協奏」という言葉ですが、四井さんはクルックフィールズのパーマカルチャーデザインの責任者として、小林さんとタッグを組んで活動されているわけですけど、この「協奏曲」というのはパーマカルチャー的にいうと、どういうことになるんでしょう?
四井:さっきも暮らしという話をしましたが、ぼくは暮らしを実際に組み立てていく中で気づいたことなんですけど、生き物って何なのか、いのちって何なのか、ということです。いのちっていうのは、全ての生き物に共通することですが、「集める」ということを行っているんです。それに対して、物質エネルギーは宇宙に拡散するようにできているわけです。拡散する力に対して、反発して物質エネルギーを集めて、自分の体をつくり、世界をつくっているんですよ。
辻:要するに、エントロピーに対して・・・。
四井:そう、エントロピーに反して。それが僕は「いのちのしくみ」だと思うんです。クルックフィールズもやっぱり「いのちのしくみ」を基に設計しなくちゃいけないと思っていました。あと小林さんが「いのちの手触り」をテーマに掲げているんですが・・・。
クルックフィールズに来てくれた方々、あるいはそこに住んでいる方々が、そこでいのちの手触りを体感しながら、そこに存在するような場にできたらいいな、という想いでやっています。小林さんの「いのちの手触り」と、ぼくの「いのちの仕組み」というテーマをデザインの中心において設計しているというところです。
小林:そうなんですよね。元々、ぼくたちが都心でセレクトショップみたいなものとか、オーガニックレストランとか、カフェとかっていう実践の場をやった時に、ぼくにしてみると、なんか、物足りなかったというのがある。本当にやりたいことができているのっかていう。
で、2008年、2009年でリーマンショックがあったでしょ。あの時に、いっぱいリストラされていく人がいる中で、やっぱり、お客さんに「有機野菜いいっすよ」、「ちょっとお高いけど」って言うのは、なんかこう、説得力に欠けるんじゃないかと思ったことも、やっぱりあるんですよ。だから、そういう中で、ぼくができることをもう一回考えてみることになった。
ぼくはミュージシャンで、スタジオに入っている人間だから、もっとも太陽光と遠い暮らしをしている人間なんだけど、一方で、泳ぐのが好きで、海の中が好きで、スキューバダイビングにも行くにようになると、しみじみと、やっぱり太陽光と共に生きる暮らしの豊かさというのを痛感していったんですよ。で、やっぱり、99%以上、ぼくたちは太陽光からのギフトでできているんだな、と思いまして・・・。
四井:本当にそうですよね。
小林:それがまず土台になって、クルックフィールズをやりたいっていうところにつながった。で、土地を探していたら、ap bankフェスとかのご縁があって、この木更津の土地に出会うことになるんですけど。あとは、そこに働く人たちが、循環の輪の中で、お互いが支えあうような役割が見えていくというのが、大きいんじゃないかって思ったんです。それで若い連中にも呼び掛けてやってみようと。未だに離職率ゼロに近い形で今まで続いてきました。
辻:そのお仲間の方々とぼくも何度か会いましたけど、彼らが醸しだす雰囲気がとても良かったですね。気持ち良かった。
小林:そうですか、ありがとうございます。
辻:自分の仕事に対する喜びを感じるんですよね。四井さん、それ感じません?
四井:感じます。それにあと、やっぱり小林さんがクルックフィールズに来て、スタッフに接している時の、あの雰囲気が、またなんかすごいんですよ。
辻:どんなふうなんですか?
四井:最後の晩餐みたいな感じじゃないですか(笑)
小林:何を言っているのかイマイチ分からないですけど(笑)
四井:小林さんが核になって、みんなが幸せなものを創り上げよう、これからの場所を創ろう、というような、そういったすごくいいエネルギーを生み出している感じですよね。
小林:うん、まだ分かりにくい話ですけど(笑)。いや、でも、僕がどうのこうのっていうよりも、皆が考えるっていうチームにはなってきていますね、確かに。
四井:その気遣いはすごく感じます。
小林:いや気遣いじゃなくて、本当に。で、話戻りますけど、ある時、四井君に「小林さん、いのちのしくみってわかります?」と言われて、なるほどと思ったことがものすごく大きかったんですよ。これがさっき彼が言った、「集める」「集まる」ということなんですね。有機農業も微生物レベルから、まだまだいろんなやり方もあるし、うちでやっている連中でも把握しきれてないことが、たくさんあると思うんだけど、でもやっぱり自然ですからね。
「集める」ということの中に、人間も含まれていて、人間が集まれば必ず環境が悪くなるというわけでもないんだっていう話を、四井君が言い出してですね。なるほど、というところから、始めてったわけです。
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