自然からの小さな喜びは、私たちをやさしくしてくれる:ニコルさんからのメッセージ


ニコル’s Barにてクラフトジン「こころ」にサインをするニコルさん(2018年夏至)

ナチュラリスト、作家として活躍、長野県黒姫に「アファンの森」をつくり、森づくりを通して、子どもたちの未来、そして地域再生へと想いを紡いでいたC.W.ニコルさんが、4月3日、79歳で永眠されました。 ご冥福をお祈りするとともに、ナマケモノ倶楽部での交流からいただいたメッセージを、みなさんと一緒に振り返ることで、少しでもニコルさんに恩返しできたらと思います。 (前編はこちら、後編はこちらをご覧ください)


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カフェゆっくり堂の入り口には「ニコル’s Bar」の看板
ニコルさん自らジンを作ってくださいました!

2018年6月23日夜、キャンドルナイト夏至の夜に横浜戸塚のカフェゆっくり堂で開催された「ニコル’s Bar」。ニコルさんが辻さんに、「ぼくが行くならバーもやりたいからね」と話をもちかけてくださったことで、実現したスペシャルな機会です。 当日はニコルさん自らカウンターでお客さんにクラフトジンを作ってくださる場面も。クラフトジンを片手に伺ったニコルさんと辻さんの会話の中から、いくつかの言葉を紹介させていただきます。


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ニコルさんと辻信一さん(左)

黒姫での自然体験がクラフトジン誕生の原点


辻:ニコルさんのクラフトジン「こころ」。これはどういう風に生まれたんでしょうか?


ニコル:私の甥のジェームスは若い銀行マンで、スコットランドのエディンバラに住んでいます。彼が8歳の冬、1か月間、黒姫に滞在したんです。

ある日、「ジェームス、山に行こうか?」と彼を誘い、かんじきを履いて出かけました。ティピで3日間、彼と犬と一緒に過ごしたんです。外の雪は4メートル。でも、ティピの中は囲炉裏があって、毛皮とかシュラフとかで暖を取りながら、いろんな話をしました。すごくよかったんです。 電気の全くないところで、ぼくは野生のウサギをとったり。鳥の声が聞こえたりね、彼にとってすごく印象的な時間を過ごしたわけ。ジェームスは40歳を過ぎてもそのことを忘れてなかった。それで、4年前に再び彼が日本に来たとき、こう言ったんです。「これからジンが流行るから、おじさん、日本のタッチがほしい。何か美味しいものはないか?」 ぼくは「ここ(アファンの森)の青山椒を入れたらいい」と答えました。青山椒は、香りはあるけど味はないんです。だから、他の味を活かす。他のものを入れることで、ぴりっとして美味しくなる。


辻:へえ!


ニコル:ぼくが森を歩いてて、これから湧き水のところに行こうと思ったら、5分くらい前から青山椒をかんで、口の中をピリピリさせるの。そうしてから山のおいしい湧き水を飲むと、シャンパンのような味がするんです。


ニコルさんの甥、ジェームズ・ニコルさん(右)

ニコル:それで、彼がクラフトジンをつくってね、今、けっこう売れてるの。一流の英国レストランとか日本のレストランで使ってもらっています。日本の食事に合うんですよ。


辻:それは山椒のせいですか?


ニコル:そうだと思います。ドバイ、香港、シンガポール、カナダ、先月から日本でも販売してる。ぼくはアドバイスだけで、商売は甥がやってます。彼との約束は、日本で売れた何パーセントかを森に返すこと。ぼくは飲む専門(笑)。


熱量たっぷりに話してくださるニコルさん
 

自然からの小さな喜びは、私たちをやさしくしてくれる


辻:ぼくが昨日お話を伺って感動したのは、アファンの森を個人の所有ではなく、法人化した点。なかなか日本の中にそういう発想はないと思うんです。 これからアファンの森はどういう役割を果たしていくのでしょう?


ニコル:人類は自然をどんどん破壊していて、 今も続けているわけです。でも同時に、私たちには自然の傷を治す力もあると信じています。


辻:人間が自然の再生のために貢献できると。


ニコル:はい。ぼくが生まれた南ウェールズは産業革命以降、自然がすごく破壊されて、川も汚染され、地滑りなどの災害も起きました。


1960年代に、学校の先生たちが呼びかけて「自分のたっているところを愛そう、未来を信じよう、人と一緒に何かいいことをやろう」と、子どもたちと炭鉱採掘ではげ山になったところに木を植え始めたんです。それが大きな運動になって3万ヘクタールの森によみがえり、ついには国立公園に指定されました。その公園の名前がアファン。ウェールズ語で「風が通る谷間」という意味です。


辻:風が通る谷間。


ニコル:日本でも大規模な伐採による地滑り、洪水といった自然災害が起きているのを見て、ぼくは小さくてもいいから森をつくろうと決めた。


辻:その森にアファンと名付けたんですね。未来を信じると。


ニコル:今、南ウェールズの森林面積は60%です。川にはサケやイワナ、カワカラス、カワセミなど自然が戻っています。


辻:そういう意味では日本にも希望はあると。


ニコル:どんな国よりも希望はあるはずです。黒姫の小さな森でもクマが来ます。20年続けてフクロウも来ます、今年はフクロウが4羽育ったんですよ。 絶滅危惧種の59種が我々の小さな森に戻っています。 自然からの小さな喜びは、重なると大きな喜びになります。私たちは自然からの小さな喜びでやさしくなれるんですよ。


辻:それが本当の豊かさですよね。


ニコル:森を取り戻すには長い年月がかかります。毎年、木に年輪ができるでしょう?少しずつ、少しずつよくなるんです。ぼくはそれを信じてやっています。



リラックスした雰囲気で話をされるニコルさん
 

海の栄養は森の栄養になる


辻:サケをとって森の中に置いてくるという話をもう一度していただけませんか? デヴィッド・スズキと三人で会った時にも、あの話で盛り上がりましたよね。


ニコル:4年前に亡くなった義理の息子は、カナダでサケが戻れるようにと、川の再生に取り組んでいました。ひどい森林伐採のために砂利が川に流され、土砂でいっぱいになったのを直す仕事です。それを取材してテレビ番組を作るために、私もカナダへの撮影に一緒に行きました。


クマは個別で行動する動物ですが、サケが上るときだけはクマもたくさん集まるんです。彼らも自分の好きな漁場があるの。でも、周りにクマがいると自分の捕ったサケを落ち着いて食べられないから、100メートル以上離れた場所にもっていって、柔らかいところから食べ始めます。

ところが、食事の途中でも、他のクマが自分の場所で漁をしているのを見つけると、食べかけをぽいっと捨てて、すぐに川に戻る。その行動パターンを計算すると、クマ一頭あたり、800匹くらいの食べかけのサケを捨てていることになるそうです。 その捨てられたサケは、どうなると思いますか?


サケの産卵期の森の中で深呼吸はやめたほうがいいよ。くっさいの。捨てたサケにはウジがいっぱい動いている。それを狙って鳥もいっぱい来ます。こうして海の栄養が森の栄養になります。そして、山のミネラルがまた海に流れていく。


辻: ぼくもカナダで見た、サケが遡上する光景は忘れられないですね。森の陰からのぞくと、もう大パーティ! ありとあらゆる動物が集まってね。

デヴィッド・スズキに聞いたんですが、そのウジが蠅として飛び立つところがまたすごい。一挙に羽化すると黒い煙のよう。するとちょうどそれを見計らったように、渡り鳥がやってくる。それを餌にして、元気になってまた次の場所に飛び立っていく。これが寸分の狂いなく、毎年行われてきたっていうんです。その奇跡的なサイクルが、今、気候変動で崩れはじめているわけですね。

 



What are we gonna leave?ー私たちは何を残すのか?


ニコル:私にも孫がいます。神様のいたずらかもしれませんけど、この「青い目の赤鬼」が日本で森をつくっている。その私が、「What are we gonna leave? 」何を残すのか、これからどんな自然を孫に残していくのかと、最近、そのことをよく考えるんです。 

2016年冬、約束していたのに戸塚に来れなかったのには理由があります。病気になって大きな手術をした。もう大丈夫なんですが、そのときに色々考えました。


今までに本を出したり、美味しいウィスキーを出したりしました。それはそれでいい。でも、それより、小さな森、小川ひとつでも残せたらいいなと。それならぼくがティーンエイジャーのときに会ったシャーマンにも、「まあまあがんばったな」といってもらえるかなって。


辻:何を残せるのか、この問いは胸に響くなあ。 ニコルさんは、アファンの森を自分の所有にしないで、それを手放している。でもそれは無関係になるということではなく、それを関わり、育て、残していくということです。

ニコル:ぼくは日本にお返ししたかったんです。そのほうが幸せです。だって、もともと日本の大地はクマの森、フクロウの森だったから。 私が日本人というとき、ただ人間のことだけを考えるわけではありません。クマもキツネもフクロウも、それも含めた日本だと思っています。 国を愛することは大地を愛すること。だから、流れる川を汚しちゃダメなんです。空気もそう。もともと日本人の心にはその大地を愛する気持ちがあると、私は信じています。


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ニコルさんからいただいた言葉を大切に、これからも、森を守り、私の中にある森を育てていこうと思います。謹んでご冥福をお祈りいたします。(ナマケモノ倶楽部事務局)


C.W.ニコル アファンの森財団 https://afan.or.jp/ C.W.ニコル 自然再生基金 https://afan.or.jp/cwnicol-memorial-fund/



著書にサインをするニコルさん

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