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エントロピー学会の「未来への提言」 ナオキン

こんにちは!ナオキンです。地域主義の3回目は、エントロピー学派により立ち上げられた「エントロピー学会」とその提言についてご紹介したいと思います。

エントロピーに関する議論を積み重ねてきた槌田、玉野井、室田や鶴見和子ほか37名の発起人の諸先生を中心に、物理学、経済学、社会学、哲学、科学史などさまざまな分野の研究者や市民が集まり1983年設立。会員約800名(2003年当時)。年2回の研究会、会報など40年目の今年も活動を継続中。

【設立趣意書より】

「物理学におけるエントロピーを用いて、生命および生命を含む系を論ずることの重要性が受け入れられてきている。・・・・・この学会における自由な議論を通じて、力学的または機械論的思考に片寄りがちな既成の学問に対し、生命系を重視する熱学的思考の新風を吹きこむことに貢献できれば幸いである。」


ここに、エントロピー学会20周年(2003年)に発行された「循環型社会を創る ~技術・経済・政策の展望」(藤原書店)の中から、学会による提言の項目を記載させていただきます(詳細の説明は同書に記載)。


私たちの社会がこんな基本原則をしっかり共有できていたら、未来の世代に安心してバトンを渡せるだろうな~というような内容なんです。



『循環型社会を実現するための20の視点』エントロピー学会(2002年9月)

1 エントロピー論の基本的考え

1)地球上の生命と人類社会のあり方を理解する鍵は、エントロピーである。


2)生態系の特徴はその定常性にある。「エントロピー増大の法則」の存在にもかかわらず生命系がエントロピーを一定に保って生きていられるのは、エントロピーを捨てる過程があり、そのエントロピーを受け取る環境が定常的に存在するからである。

3)地球上の生命と人類社会が存続するためには、広汎な共生の体系(生態系)が、物質の循環によって、発生したエントロピーを宇宙空間への熱放射という形で最終的に廃棄できなければならない。


4)生態系とは、高エネルギー・低エントロピー物質(炭水化物・タンパク質などの有機物)の利用の連鎖によって循環的に連なった、広汎な共生の体系である。循環(物質循環と状態循環)が生態系の維持にとって基本的に重要である。

5)自然の循環と生命系の活動・多様なあり方とを壊すような人間の活動は、きびしく制限されなくてはならない。


2 技術と生産活動のあり方

6)技術はエントロピーの法則に規定される。

7)地下から鉱石や化石燃料を掘り出し使用することは最小限にとどめ、適切に管理し、有効かつ公正に活用しなければならない。


8)自然界にない化学物質を人工的に作り出し利用することは最小限にとどめ、適切に管理し、有効かつ公正に活用しなければならない。原子力や遺伝子操作の商業利用は厳しく制限されねばならない。

9)リサイクルは循環型社会実現の限られた一手段に過ぎない。リサイクルは万能ではない。


10)大量生産・大量消費・大量リサイクルからの脱却が基本である。地域での物質循環を崩壊させるグローバリゼーションでなく、地域を基礎とした生産システムへの転換が実現されねばならない。


3 経済と人間活動のあり方

11)市場経済はエントロピー処理機構を持たない非自立的なシステムである。


12)市場でできることとできないこととは明確に区別しなければならない。

13)市場でできないことは非市場的な人間活動に任せるべきである。


14)非市場経済は社会的存在としての人間関係の中に埋め込まれている。


15)広義の経済学の課題は生命系の経済(循環経済)の構築にある。


4 法・政策と社会のあり方


16)循環型社会形成推進基本法は、大量生産と大量消費を支えてきた技術と経済を前提にしており、廃棄物処理・リサイクルもまた、そのような制約条件の範囲内に限定されている。

17)廃棄物をどう処理すべきかについてきちんとした評価をするとともに、生産に遡った廃棄物対策の改善を明らかにするシステムが必要である。

18)廃棄抑制の基本は生産それ自体の抑制である。とりわけ、リサイクルも廃棄もできない有害な処理困難物は生産の抑制を図るべきである。

19)廃棄物の適正処理・リサイクル等の責任は、廃棄物となる製品を生産した者が持つこと(拡大生産者責任)を基本とし、リサイクル費用もまた、生産者の負担とすべきである。

20)「循環型社会」の形成を目指す政策は、生態系を維持する自然の循環を基本としこの循環を途切れさせて大量に廃棄物を生み出してきた従来の経済・社会システムを変革するものでなければならない。


【追 伸】

前回からご紹介している槌田、玉野井、室田のエントロピー学派の三人の先生方による共同論文「永続する豊かさの条件~エントロピーとエコロジー」が、サティシュ・クマールさん編「ほんとうの豊かさを考える シュマッハーの学校」日本語版(耕人舎グループ訳 ダイヤモンド社刊 1985年)に掲載されていました。ガルトゥング、スナイダー、ペトラ・ケリー、セールなどそうそうたる寄稿の中での日本代表!当時エントロピーへの関心が高かった証しでしょうか?


最後までご覧頂きありがとうございました!




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