新しいウィンドウが開きます 新しいウィンドウが開きます

文化と自然のウォッチマン アンソニー島(カナダ)

10月の第2日曜日に行われる大宴会(ポチラッチ)を控えてグジャウは大忙しだ。漁に出た彼は20キロ級の鮭を20尾ばかりとってきた。早速燻製の準備が始まる。

クィーンシャーロット諸島。カナダの太平洋側、北緯52度から54度にかけて南北に伸びるくさび型の諸島郡。先住民ハイダが何千年もの間暮らし、人間の島と呼びならわす場所だ。



グジャウがスキダゲイト村にある家の背後に自分で建てたスモークハウスの屋根から青い煙がのぼってゆく。ハイダにとって鮭は昔も今も主食。ポトラッチにともされる鮭は一日半、家の冬の食料となる鮭はさらに一日煙の中におかれる。

その間グジャウは家と村の共同作業場の間を行ったり来たりする。先住民芸術が高く評価される今日、そのさきがけとなったハイダの芸術作品はこうした作業所から生まれた。グジャウは現在そこで7メートルのトーテムポールを製作中。そしてそのすぐ横ではドンクというあだ名の彫刻家がポトラッチ用の約2,5メートルの小型トーテムポールの仕上げを急ぐ。

”グジャウ”とはハイダ語で太鼓の意。その名の通り彼はハイダきってのミュージシャンとしても知られている。ポトラッチのような伝統行事がある度に彼は若者たちを集めては、ハイダ民謡を教え、踊りの稽古をつけ、本番では自ら太鼓をたたきその太く豊かな声を披露する。

漁師で工芸家で音楽家のグジャウは、長年環境運動化としても活躍してきた。ハイダの文化はその豊かな自然と切り離しえないと信じる彼にとって、さまざまな文化的、政治的活動はひとつのことの異なる表現でしかない。80年代半ばに展開されたライル島の森林伐採反対運動でも彼は中心的役割を果たした。伐採を中心に追い込むばかりか、政府を押して南部の島々をグアイ・ハナと呼ばれる自然保護区として公認させるに至ったこの闘いは、カナダの環境運動史を画す出来事だったといわれる。またそれに先立つ1981年にはニンスティンツという集落の跡がある最南端のアンソニー島が世界遺産リストに記載されている。100年以上前に立てられ、今では朽ちかけているトーテム・ポール群で知られるハイダの聖地のひとつだ。

グジャウは言う。自然保護区や世界遺産としての認知は、それぞれが外部の科学者や文化人にどのような意味をもつにせよ、ハイダにとっては自分たちのアイデンティティーを開発の波から守る防波堤に他ならない。

ハイダのトーテムポールの先端にはよくウォッチマン(見張り )と呼ばれる人物像が彫られるが、これこそ何千年にもわたって豊かな自然の中で独特の文化を育んできたハイダの精神を象徴するものだ。ハイダにとって人間は自然の所有者ではなく、そのウォッチマンにすぎない。トーテムポールの上でウォッチマンは四方を見つめ、過去を、そして未来を展望しているように見える。グジャウはそんな自分をウォッチマンになぞらえて自然を、文化を、どうやって子どもや孫の、さらにその先の世代へ受け継いでいけるかどうかと思案する。

ハイダグワイの森

ユネスコ機関紙 『ユネスコ』1997年2月号より

前のページへ戻る