ナチュラリスト、作家として活躍、長野県黒姫に「アファンの森」をつくり、森づくりを通して、子どもたちの未来、そして地域再生へと想いを紡いでいたC.W.ニコルさんが、4月3日、79歳で永眠されました。
ご冥福をお祈りするとともに、環境=文化運動ナマケモノ倶楽部の活動初期より交流を持たせていただき、様々なムーブメントを応援いただいたことを、みなさんと一緒に振り返ることで、少しでもニコルさんに恩返しできたらと思います。
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昔の日本人にみる、ちょっとしたやさしい心づかい
NGOナマケモノ倶楽部(通称ナマクラ)の設立が1999年7月。2001年アースデイ東京で、辻さんとニコルさんが森づくりのトークでご一緒させていただくなかで、「ナマケモノ倶楽部」という活動について辻さんからニコルさんにお伝えしたのだが最初と思います(たぶん)。
その後、スロー運動の広まりとともに環境イベントでご一緒する機会も多くなりました。
南米エクアドルの先住民族に伝わる民話「ハチドリのひとしずく」。大きな森が山火事にあうなか、たった一羽の小さなハチドリがくちばしで水を運ぶ様子を描いた、たった16行の物語。震災以降も多くの方に勇気を与えるお話として各所でとりあげていただいてます。 実は、このお話は、エクアドルの先住民族キチュアのアルカマリさんから2001年秋(911同時多発テロの直後)に聞いたお話をもとに、地球温暖化防止を訴えたブックレット『地球の冷やし方ー私にできること』として、ナマクラがたちあげた自主メディア「ゆっくり堂」から2005年に刊行したものです。ワンガリ・マータイさんをはじめ、ニコルさんもとてもこのお話を気に入ってくださいました。
ブックレットには、著名人の「私にできること」として、セヴァン・スズキ、坂本龍一さん、枝廣淳子さんをはじめ、ニコルさんからもメッセージを寄せていただきました。ここに皆さんに紹介したいと思います。
ハチドリのお話は、私にツバメのことを思い出させます。私がはじめて来た頃の美しい日本は、ツバメを大事にする人々の国でした。家々の軒先はもちろん、家の中にまでツバメがたくさんの巣をつくって、まるで家族や友だちのように一緒に暮らしていました。害虫をたくさん食べてくれるツバメは、豊作をもたらす縁起のいい鳥で、人々はツバメが雨を運び、夏を運ぶものだと感じていたのです。 ところが今の日本人は、ツバメを嫌い、邪魔者あつかいにし、まるで天敵のように追い払おうとします。見た目に悪いとか、不潔だとかいって。かつての友人をこんなふうに冷たく扱う姿にぼくは、「新日本人」の心を見て、悲しいのです。 私は、ここ長野県黒姫高原で仲間たちと「アファンの森」という森をつくっています。そこにまた、鳥や虫や動物たちがたくさん集う日を夢見て。 でも私は思うんです。 大切な自然を私たちが守れるかどうかは、自分の住む家の軒先をツバメに貸すという、ちょっとしたやさしい心づかいにかかっているのではないか、と。 C.W.ニコル
「経済」という名の鬼にとらわれて、人のいのちや健康さえも犠牲にしている
「環境問題とは私たちの暮らし方=文化の問題である」という思想は、文化人類学者の辻信一さんがカナダ先住民族や世界的な生物学者で環境運動家のデヴィッド・スズキさんから学んだ態度です。
そのデヴィッドさんが2009年、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学で行った最終講義を翻訳した『いのちの中にある地球』が2010年、NHK出版より刊行されました。
カナダではテレビキャスターを長年つとめ、国民的人気を誇るデヴィッド・スズキ博士ですが、日本では、1992年リオ・サミットで「伝説のスピーチ」をしたセヴァン・スズキのお父さんと紹介したほうがわかる方もいるかもしれません。 カナダ環境庁でも仕事をされていたことのあるニコルさんにとって、デヴィッド・スズキ博士は敬愛するレジェンドの一人。デヴィッドさんの最終講義を日本で出版するにあたり、「まえがき」をぜひニコルさんに書いてほしいとお願いしたところ、すぐご快諾いただき、日本への愛情あふれる力強い文章をいただきました。その一部を紹介させていただきます。
はじめてスズキ氏のドキュメンタリーを見たのは、日本での勉強を終え、カナダ環境省の仕事でカナダに戻った1970年代のこと。それ以来ずっと、私は、数多い彼の著作やドキュメンタリー映像の熱心なファンだ。(略) この本は、日本人にとって極めて重要な本だ。自然を崇め守る古来からの日本の伝統文化は、失われてしまったかに見える。変化に富んだ長い海岸線、多くの火山、豊かな雨、目をみはるような生物多様性、国土の60パーセント以上をおおう森林、教養ある国民、そして高度に進んだ技術。これらの恵みをもつ日本は、環境保全と持続可能な暮らしづくりの分野で、世界のリーダーであってもおかしくない。しかし、残念ながら、現実はそれとはほど遠い。 スズキ氏が指摘するとおり、地球は有限なものであり、成長することはできない。そして、経済はこの地球の一部であり、生物圏なしには存在しえない。水、空気、食べもの、エネルギ―、木材などを得られる場所は地球のほかにないのだから。とすれば、経済の無限成長などというのが、妄想じみた絵空事でしかないことは明らかだ。(略) 私たち日本人はあまりに長い間、自国だけでなく他国の自然資源まで浪費してきた。たくわえも底をつこうとしている。「経済」という名の鬼にとらわれて、人のいのちや健康さえも犠牲にしているではないか。あと何人の自殺者をだせばいいのか? 空気や水や土や、そして食べものを汚染して、いったいあとどれだけ自分たちの子や孫の健康をおびやかすつもりなのか?(略) クマを撮影するためにカナダ西海岸を旅行中に、私はスズキ氏に会ったことがある。ポートハーディからバンクーバーへの飛行機のなかでも、彼と話す機会があった。また、東京でのアースデイ公開シンポジウムで、スズキ氏とともに、本書の翻訳者でもある辻信一氏に会えたのも幸運だった。それはまるで古い友人たちの再会のようだった。 C.W.ニコル
アファンの森での、ニコルさんとのひと時
アースデイ東京の実行委員長を長年つとめてこられたニコルさんと、毎年4月にお会いするのを楽しみにしていた辻さん。2016年春には日本でオーガニックコットンを広めるアバンティ渡邊智恵子さんに誘っていただき、黒姫のアファンの森にニコルさんを訪ねる機会に恵まれました。そのときの様子を、辻さんがフェイスブックでコメントされています。
雨が降り始めたら、ニコルさんが、挨拶でもするみたいに気取りなく、雨の歌を歌い出した。寒くなるとすぐに暖炉に火を起こしてくれる。その暖かさにくるまれて、渡邊智恵子さんと対談。アファンの森の贅沢な午後 。(辻信一)
>> 「渡邊智惠子の「22世紀に残すもの」」(全3回)はこちら!
キャンドルナイトにニコルさんをお呼びしたい!
2001年5月、アメリカ発、オーストラリア経由でナマケモノ倶楽部に回ってきたのは、夏至の2時間、でんきを消そうという自主停電運動。そのあと、仲間たちと「100万人のキャンドルナイト」を立ち上げ(2003年夏至)、環境省のライトダウン運動とも連動して、誰でも始めることができる日本独自の環境ムーブメントへと広まっていきました。
100万人のキャンドルナイト実行委員会は2013年に発展的解散をしましたが、ナマケモノ倶楽部では、そのあとも夏至と冬至の年2回、「でんきを消してスローな夜を」を掲げて、トークや音楽、マルシェを行っていました。 「ニコルさんをいつかトークにお招きしたいね」 そんな話が現実になったのが、2016年冬至のキャンドルナイトin戸塚。「美しい日本(くに)って?」をテーマに、ニコルさんに森のお話をたくさん伺おうと、明治学院大学の学生さん、とつか宿駅前商店会、ナマケモノ倶楽部とも張り切って準備をすすめていました。 ところが、開催1週間を切った午後、マネージャーの森田さんから、ニコルさんが体調を崩され救急搬送されたと連絡をいただきました。幸い、大事には至らなかったものの、翌週の東京出張は取り消しとなり、その後、夏至・冬至とご都合があわないながらも、いつもナマケモノ倶楽部を気にかけてくださっていました。 そして、一年半越しになる2018年夏至、ついにニコルさんをお迎えしてのキャンドルナイトが実現することになったのです!(後編につづく)
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