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物々交換で生き抜くという「豊かさ」-エクアドル・ワダアヤさんからの報告

新型コロナウィルスの拡大により、人と人との密な接触が制限され、今までの経済と異なる在り方が模索されています。ナマケモノ倶楽部設立時からのメンバーで、現在エクアドルで生活をしているワダアヤさんから、既存の市場経済に頼らない素敵なチャレンジの体験談が届いたので、みなさんとシェアしたいと思います。


村内会やNGOなどが、人と人、地域と地域のニーズをつなぎ、贅沢でなくとも、暮らしに小さな喜びとコミュニケーションを循環させるって、素敵だなと感じました。(事務局)

 
ワダアヤさんの暮らすエクアドル・コタカチ郡

2020年5月2日


物々交換で生き抜く

ワダアヤ


エクアドル全国で外出禁止令が出てから1ヶ月半。外出禁止令というのは、食べ物、薬、生活必需品を買いに行く以外の外出は基本的に禁止で、その買物も、身分証明書番号の末尾の番号で週に一度買い物をしてよい日が決まっています。日本よりも極端に厳しい規制です。


毎月の給料が保証されている人は、エクアドルではほんの一部、ほとんどが非正規、あるいは日雇いの仕事や自営の農業・漁業で生計を立てています。そういう国で外出禁止令が出ると、当面自分の食べるものはあっても、自分たちの作った・採ったものは売ることができません。しかし、平時でも決して楽ではない毎日を生き抜いてきた人たちというのは、本当に強い、ということを改めて感じたできごとがありました。


村内放送で先日、「海岸地方からの生産物を積んだトラックが明日きます。交換できるものがある人は、今すぐ持ってきてください」と流れました。


え?!と一瞬、止まりましたが、みんなですぐさま収穫の時期を迎えようとしていたとうもろこし、豆、かぼちゃを採り、私が以前作った大量にあるジャムを夫が荷押し車に乗せて、村の集会所まで走りました。


村長さん曰く、「海岸地方の人たちは、魚を売るための流通がかなり麻痺している。仮に売れたとしても、自分たちのものを買いに行くことができない。でも自分たちの食べ物だけでは生きていけない。

だから山岳地方の人たちと、食べ物を交換したいと言っている」と。

あるNGOの助けで、4トントラックで海岸地方から海産物や暑い地方で採れるバナナなどを運び、帰りにこちらの作物を持って帰るというのです。


通常の交換会でしたら、交換したい人たちがそれぞれ交渉して交換が成り立ちますが、人と人の接触はできるだけ避けなければならない今の状況では、持ち込まれた作物は村内会がまとめ、それぞれの持ってきた交換物によってリストが作られ、翌日早朝についたトラックで運ばれた作物を、リストによって分けて、また村内放送で、時間差でリスト順に村民を呼び、配分された分を渡す、という方法を取っていました。


そして呼ばれた夫が持ち帰ってきたのは、

ー 何の魚かはわからねど、鉈でぶった切ったような皮(鱗?)の超かたい魚(カツオっぽい色)

ー 同上 (白身魚)

ー 1ポンド分くらいのエビ (まだ動いていた)

ー 調理用バナナ1本(バナナ「ひと房」ではなく、バナナの木1本になるバナナ全部!)


私は本当にたまげてしまいました。なんとまぁ。すごい。

物々交換でいただいたエビと白身魚のブロック

こんなふうに食べるものが手に入るのか。もし私たちが自分たちが持っていったものを現金に換算したら、こんなにたくさんは買えない。あれだけのものを売ることができたかもわからない。お金にできなくて困っていたかもしれない。でも、お金がなくても、こうやって、山に住む私たちも海の魚を食べることができるんだ。


日本の基準で言ったら、衛生的にも扱い方にも問題あり!!でしょうが、ここでは誰もそんなことを問題にはしません。ただ一点。生き抜くために、食えるものは大事にいただくということにつきます。


これを皮切りに(かわかりませんが)、同じコタカチ郡の亜熱帯地方のインタグから、私が住むアンデス地方にキャッサバ、バナナ、パネラ、フルーツなどを乗せたトラックが届きました。アンデス地方からも豆、ジャガイモ、かぼちゃ、野菜などを送り返します。


ただこれだと生産者しか参加できないじゃないかという面もあります。そうしたら、昨日、近所の友人が、コタカチ郡あるいはインバブラ県(コタカチ郡を含む県)でのバーター専用のFBページを開きました。さっそく、食べ物はもちろん、サービスや食べ物ではないものの交換も含めて、やりとりがすごいです。


「アボガド、あります。フルーツや野菜と交換してください」

「コーヒーと蜂蜜交換しませんか」

「ものを運ぶサービスをしています。宅配をお手伝いするので、手数料の代わりにモノで払ってください」

「心理士の資格を持っています。この大変な時期、精神的なサポートをします」

「ガラス細工をしています。野菜の種がほしいです」

「英語を教えています。英語のレッスン動画となんでもよいので交換しませんか」

「操り人形師です。0歳から15歳までの人が喜ぶ人形を作っています」


興味のある人が直接相手と連絡を取るシステムにしています。もちろん、かかるお金がゼロというわけではありません。交通費もかかるし、必ずしも必要なものが手に入るわけではない。贅沢できるわけではない。楽なわけでもない。でも、このたくましさ。あたたかさ。豊かさ。あるものをいただいて、自分たちをそれに合わせていく柔軟さ。ローカル内で支え合えること。ローカル同士で支え合えること。


日本のある記事では、「エクアドルやペルー、エジプトやバングラデシュには十分な国力はなく、感染が広まれば完全に崩壊しかねないでしょう」と書かれていました。でも、国が「完全に崩壊」しても、この国の人々は、どうにかして生きていくのだろうと思いました。

 

和田彩子(ワダアヤ)

ナマケモノ倶楽部および株式会社ウィンドファームエクアドルスタッフ。1999年、第1回エクアドルツアーに参加、エクアドルの自然とその自然を守ろうとしている人々に感銘を受け、2002年より長期滞在中。

エクアドル環境保全郡コタカチ郡や有機生産者、手工芸品に取り組む女性グループ、コミュニティエコツーリズムの活動を日本に伝える傍ら、スローをキーワードに、5年半かけ、ソーラーシャワーやコンポストトイレを設置したストローベイルハウスを建設。家族で「有機農園クリキンディ」を営みながら、手作りの暮らしを模索中。三児の母。

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