前回、自然農実践家の故松尾靖子さんが、2011年のブータン・ツアーで、帰りに立ち寄ったタイのウォンサニット・アシュラムでぼくのゼミ生を前に語ってくださった言葉を読んでいただいた。今回はそれに続いて、あの場に同席していた同じツアーのメンバーの言葉も記録に残っている。松尾さんに同行していた自然農のグループのうちの二人の発言をここに紹介させていただく。
うちひとりは俳優の杉田かおるさんだ。彼女は当時、3・11後の悩み深き時期に、松尾さんの導きで自然農の豊かな世界に足を踏み入れてから3ヶ月だった。田畑に立つ喜びを語るその生き生きとした姿が思い出される。もう一人のHさんの、「徴農制」や「畑は自分を映す鏡」という言葉にも、強い印象を受けた。自然農がたたえる深い世界が感じられる。
杉田さんは、来る9月12日の『自然農という生きかた』出版記念オンライン・イベントにもゲストとして参加してくれることになっている。お久しぶりにお話しするのが楽しみだ。
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杉田かおるさん:私、ずっと芸能界しか知らないままきたんですが、実は20代の頃から農業に強い憧れがあって、仕事が一段落ついたら農業をやりたい、40代になったらやりたいなと勝手に思っていて、人にもそう言ってたんです。
そして40になる前に、農業の勉強をし始めようということで、まず有機農業の塾に2年間通って、土づくりについて学ぶことになった。その時はまだ自分で農業をやる勇気はなかったんですが、今年の東日本大震災と福島原発事故以降、実家が福岡なので帰っていまして、ご縁があって松尾靖子さんのところで、初めて自分の畑で作物を育るということをさせてもらったんです。今3か月目なんですけど、もうなんか、毎日が楽しくて。
農業ということに関しては最初は敷居が高かったんですけど、でも松尾さんの農園っていうのはほんとに誰でも受け入れてくれるという雰囲気があったんです。結構若い人から年配の方まで幅広く来ていらして、私も入りやすかったです。
有機農業と自然農とが、根本的に違うな、ということを今、実感しています。有機農法は農業のやり方にしろ、土づくりにしろ、人間主体の農業スタイルなんですね。けれど自然農に入ってみると、人間が畑にお邪魔させてもらって、いろんな生きものの生態系を勉強させてもらうっていう感じなんです。その中で自分のできることは何か、知りたいことは何か、を見出していく。それは、まさに今日ここ(ウォンサニット・アシュラム)での、瞑想の時間みたいに、自分に気づくという感覚です。
自然がつくった土っていうのはすごくきれいです。私は町育ちだったので、虫もゴキブリしか見たことないって感じで、虫に慣れるまで大変だったんですけど、自然農を始めてから虫に対する考えが変わってしまいました。ともに生きているというか、生命を共有してるというか。松尾さんの農園の土はほんとに綺麗で、そのまま土ごと食べたいって感じるくらい。作物に土をいっぱいつけたままもって帰って、「うれしいー」って。すごく不思議な、きれいな土なんです。そういうことをすごく感じる、自然農3か月目の今です。
Hさん:見学会というのは、遠いところから色んな人が来るんですけれども、私が初めて見学会に行ったとき、ほのぼの農園で野菜を育てたいというよりも、「あー一日こういうところで過ごしたいな」って思ったんです。そう思っていたら、研修生を受け入れて下さっているということで、私その頃もう60歳過ぎていたんですけど、研修生として受け入れてもらって、それで、普通1年のところ、2年間研修生として過ごさせてもらいました。それはもう、最初に畑に立ったときは畑がきらきら輝いてて、ほんとに神々しくて、その中で2年間過ごさせていただいた。
その2年間は本当に素晴らしい日々でした。松尾さんのお父さんとお母さんがやっぱりずっと稲を育ててこられて、その生き方、そしてその一言一言がとても素晴らしくて。最初に行ったとき、そこにゴザを持っていって敷いて、おふたりの横で私も一緒にお昼寝をしたんですけど、気づいたらもうおふたりはとっくに畑で働いているなんてこともありました。
そういう経験をして思うのは、もし、徴兵制じゃなくて、“徴農制”っていうのがあったらいいのにな、と。自分の人生を決める前に、お米を1年か2年育てる。そのあとなら本当に良い人生の選択ができるんじゃないかと感じました。畑では、自分がこう、その場に素直になれるというか、手放しになれる。そうしないと、私が会社に勤めていたころのように、結局、いやいややっている感じで、ちっとも楽しくなくなってしまうのではないか。
やっぱり畑にたって、自然にまかせ、委ねることです。そうでないと、たとえ素晴らしい環境の中にいても全然豊かな気持ちになれない、と思ってます。さっき松尾さんが言われたように、畑は自分を映す鏡だと思います。
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