top of page

わたしの中の自然ー坂田昌子さんと「裏高尾」を歩く 馬場直子



●ゆっくり歩いて見えてきた、大きな世界


4月中旬、数名のナマケモノ倶楽部に連なるメンバーで東京の高尾山にいってきました。目的は登山ではなく、植物観察。生物多様性ガイドの坂田昌子さんに案内していただく「裏高尾」です。国定公園にも指定されている高尾山は、東京、いや日本が誇る生物多様性スポット。1500種類にも及ぶ小さな生き物たちが生息し、いのちの循環を続けています。雨天の翌日の快晴。日影バス停に集まった参加者たちにルーペを渡しながら、坂田さんはさっそく足元の草花を紹介してくださいました。


ノキシノブというシダ植物は、花や実をつけない代りに葉の裏に胞子の塊をつけ(びっしり!)、種を残していくこと。アブラチャンの葉っぱはやわらかいこと(フェルトみたいな感覚?)。桂はハート型の葉をしていて、落ち葉は甘いにおいを出すこと(不思議だー!)。コクサギの葉っぱは人間には強烈な匂いでびっくりだけど虫たちにとっては大事なごはんなこと。モミジイチゴは6月頃が食べごろで、ほら、実がつきはじめているでしょう?(ほお!)。アオキは赤いヴィヴィッドな実をつけるが味はいまいちで野鳥や動物たちにもあまり人気がないこと(へえー!)。


説明を聞いてはメモをとり、実物にルーペを近づけて花弁の奥をのぞいたり、花びらの様子を観察したり。一気に視界が歩いてる高さからぐぐっと低くなります。半日の散策で書きとめた野草の種類は30種類。坂田さんが説明を省いてルートを急いだ部分も考えると、歩き回れるエリアになんとたくさんのいのちが共生関係のもとに生きているんだ!と、その小さなワンダーランドにお邪魔させていただけたことがとても嬉しくなりました。

しゃがみ込み、ルーペを使って、小さな植物の世界にはいらせていただく参加者たち。


徒歩15分くらいの日影沢キャンプ場までの道を2時間かけてすすみ、キャンプ場でお弁当。午後はさらに日影沢林道をすすみ、推定樹齢200年のモミの木や推定樹齢300年から400年(大長老だ!)のケヤキの木に抱きつく時間もとれました。高尾山は小仏層という地層が隆起してできた山だそうで、隆起する前の大昔は海の底だったのだといいます。隆起したことを伺わせる縦の断層がむき出しになっているポイントも教えていただきました。地球上の水は長い年月をかけて循環していますが、高尾山では水のめぐりが早く、およそ15年前の雨水が湧き水として出てくるのだそうです。湧水スポットでは各自、お水を口にふくむ体験もし「やわらかい!」「おいしい!」などの声があがっていました。

大きな切り株に苔、杉っ子、もみっ子、すみれ草が。

歩くなかで、森の成り立ちについても坂田さんに教わりました。岩と水がある場所に苔がついて、有機物である土ができる。苔のあるところは風のとおり道。その苔と共生するように杉っ子やもみっ子が生まれ、木が育っていく。岩のミネラル分を吸収して育つ木は巨木になりやすい。沢沿いの岩は長い年月の中ですり減り、なくなってしまうが、木も役目を果たすと内側から朽ちていき、やがては土に還る。土のなかの菌根菌(キンコンキン)が植物と土をつなげてくれる役割をにない、いのちは続いていく・・。別の場所では、大きな切り株から次の世代のいのちが育っていく「切り株更新」を見ることもできました。



●自然の回復力を信じる、そして、待つ


日影沢沿いにキャンプ場まで歩く道の途中には、コンクリートで護岸された箇所がありました。2019年の台風19号の被害で崩れた箇所を復旧作業の一環だそうです(写真手前)。川をはさんで対岸には緑が見えますが、手前は砂利とコンクリート。いのちはこれっぽっちも見えません。「コンクリートで固めなかった対岸はもうこんなに自然が回復してきてる」と坂田さん。手前側ももう少し、自然の力を信じて待つことができなかったのかな、コンクリート以外にも方策はなかったのかな、と考えてしまいました。


午後に歩いた林道のほうでも、同じくコンクリートでせき止めたはずのブロックが水の勢いにかなわず崩壊した箇所がありました。「コンクリートは最強だ」という過信にもとづいた現実を見た思いでした。「人間は自然にはかなわない」、半日という短い時間でしたが、森を歩いたなかで、参加者の誰もが感じたことではないでしょうか。


気持ちのよい空気を思いっきり吸って、身体にいのちのエネルギーを流し込んだ半日。目線を変えるだけで、都市部にも小さないのちたちが懸命に生きていることに気付かされた裏高尾での時間。キャンプ場のコンポストトイレに入ったとき「私たちも有機物の生物なんだ」と、少しは自然のお役に立てた感じがしました。


今回ガイドをしてくださった坂田昌子さんは、生物多様性のスペシャリスト。高尾山はもとより全国各地で生物多様性のガイドや講演をしています。新型コロナウィルスの感染拡大でまだ大きく呼びかけにくい状況ですが、様子をみて夏にまた企画したいなと思いました。


■坂田昌子さんの生物多様性ツアー




樹齢300~400年の大ケヤキの前で集合写真





閲覧数:235回
bottom of page