巻頭コラム33

書評『あっぱれ!日本のスローフード』(文・写真 飯田辰彦)

著者、飯田辰彦は「ヨーロッパ中心に語られる昨今のスローフード・ブーム」に当初から疑問を感じていたのだという。「なぜ、足元のこのうえなく豊かな日本のスローフードを見つめ直さないのか」、と。本書はこんな疑問への答えだと、彼は言う。

その答えの堂々たること! 日本各地の伝統文化の中から選りすぐった郷土料理がズラリと並ぶ。飯田はわが日本を「奇跡の国」と呼び、「食に関する限り、この国に生を受けたことはじつに幸せなことである」と愛国的な心情を吐露する。

だが、それは単なる食についての偏狭なナショナリズムではない。それどころか、飯田はなんと、百カ国以上をまわり、「行く先々で、多彩で個性的な素材、またレシピを楽しませてもらっている」と言う食のコスモポリタン。しかし、そんな海外での豊富な食体験も、日本各地の「桁外れに豊穣な郷土食の総体」の前では影がうすい、と彼は言うのだ。

スローフードという素敵な言葉が日本に上陸した頃、しかし、飯田と同じように、そこに群がる企業やメディアに、相も変わらぬ欧米指向を感じて、うんざりした人は少なくなかったと思う。ぼくもその一人だ。しかし、島村菜津が『スローフードな人生!』(新潮社)を書き、イタリアの片田舎で始まったこの運動の真意を明快にしてくれたおかげで、ぼくは、飯田の言う「自分の足元のこのうえない豊かさ」への視線を手に入れることができた。ちなみにイタリア研究者であるはずの島村はその後、5年の月日をかけて日本各地を取材し、その成果を『スローフードな日本!』(新潮社)にまとめた。島村といい、飯田といい、スローフードを日本の地域から考えるという地味で大切な仕事をしてきた人たちだ。スローフードとは結局、再発見された郷土食であり、地域に今も息づく食文化のことだったのだ。

「スローフードは日本の郷土食から」。そんな飯田流の愛国主義ならぼくもぜひ仲間入りしたいものだ。

辻信一(明治学院大学国際学部教授・文化人類学)