大切なことを思い出すために
相も変わらず、経済成長主義がビジネスに過酷な競争を強い、人々を消費に駆り立て、山河を壊し続けている。そしてそれはグローバリズムとなって世界を席巻し、あちこちに争いの種をまき散らしている。その激流の中で、ぼくたちは果たして、立ち止まることができるか、スローダウンすることができるか。もう、この辺でいいとしよう、と言う勇気をもっているだろうか。これこそが、ぼくたちにとって今、最も大切な問いだという気がするのだ。
チェコの作家ミラン・クンデラによれば、現代は「忘れる」ことにとり憑かれた時代だ。忘れるためにこそ人々は加速する。確かに人は、何かを思い出そうとして歩みを緩め、逆に嫌なことを振り捨てるように足を速めるものだ。とすれば、立ち止まり、速度を落とすことがぼくたちに必要なのは、きっと忘れかけていた何か大切なことを思い出すため。
ぼくたちが忘れようとしてきたもの、それは何だろう。それは昔から長い年月をかけて無数の人々が培ってきた文化、その文化の中の様々なつながり、そして、そのつながりを可能にする「遅さ」、ではないか。人と人とが、人とモノとが、人と自然とが、なんとか折り合いをつけながらつながり、支えあうために必要とするたっぷりとした時間。「豊かさ」の名のもとに犠牲にしてきたそんな時間をとり戻す。本当の豊かさはそこに見出されるのではないか。
辻信一
(みなまた曼荼羅話会・出演メッセージ)
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