世話人のコーナー
辻信一
中村隆市
アンニャ・ライト
その他のコラム
 
その他

世話人・辻信一のコラム


島のスローな時間は持続可能な贅沢だ
リゾート開発ではなく、エコツーリズムを  石垣金星 × 辻信一
(『ソトコト』2003年8月号より転載)

 沖縄、西表島{いりおもてじま}が今大規模リゾート建設をめぐって揺れている。その開発計画の見直しを迫る運動の中心に石垣金星さんはいる。60年代に一度東京に出て暮らした金星さんは、1972年の沖縄返還の直後、西表に戻った。「復帰」のどさくさにまぎれて、島外資本が「島を剥がすように」、二束三文で土地を買い占めていくのを見るに見かねて、「とにかく島に帰らなければいかん」と思ったからだ。

 それから30年、変動する世界を島から見てきた。「島から見ていると世界がよく見える」と彼は言う。沖縄本島を見ると、背中ばかりが見える。本土ばかりを見ているから。日本を見ても背中ばかりが見える。アメリカばかり見ているから。西表にも明治以降、たびたび開発の波がやってきた。それらの計画のすべてが、島に昔からあった知恵を完全に無視する点で共通していた。そして、どれも、地元の人たちのためのものであったためしがない。結局、西表の人々が、戦争をはじめとした歴史の波に揉まれながらも生き延びてこられたのは、豊かな自然とその恵みのおかげだ、と金星さんは悟った。それさえあれば生きていけるし、実際生きてこられた。

 「外で何が起ころうと、お金があろうとなかろうと、常に変わらない島の土台だったんです。これをなんとしても守りたい。緑豊かな森があるからこそ、よい水がある。西表では、どこでも山の水は安心して飲めます。世界中にそんな場所がどれだけありますか?石油は飲めないけど、西表の水は安心して飲める。そしてそのよい山の水が
あればこそ、おいしい米があり、川や、サンゴ礁の海の幸がある」

●リゾートが破壊する自然、時間、暮らし

辻(以下T):今度のリゾート開発の計画が実現したら、いったい何が失われるのでしょう。

石垣(以下I):西表島の人口は2000人ちょっと。そしてリゾート計画の持ち上がっている西部地区は1000人です。そして、リゾート開発の内の今ある計画だけでも、ホテルやコテージの収容人員、従業員、そういったすべての人をあわせると1000人。つまり、地元の人口に匹敵する人々が押し寄せるわけです。これで島の人々の生活が左右されないわけはない。私が一番危惧するのが、島民のゆったりとした生活のペースが壊されることです。潮の満ちひきに寄り添うように生きてきた島民の時間が、リゾートを中心とした時間によって壊されていく。もちろん、水の問題やゴミ処理の問題も出てきます。また、その場所は、浦内川の河口地域で、生態系にとって一番大事な汽水域です。そして、海側は、西表で最も美しいといわれる浜に面したところです。

T:いわば生態系のホットスポット。そんなところにリゾートなんて、この計画はほとんど植民地的な発想ですね。I:全くです。島には戦前炭鉱があって、これも西表島最大の産業として君臨したんですが、それは、島の伝統的な産業である農業や伝統文化が衰退した時期でもあった。炭鉱と一緒に本土から様々なものが流入し、人々は貨幣経済に巻き込まれ、農業よりも炭鉱で働いて現金を得る暮らしに巻き込まれた。お金さえ出せば、それに替わるものを手に入れることができるようになった。その中でまっさきに無くなったのが伝統的な織物だったんです。現金収入を得る仕事のために、田んぼも打ち捨てられるようになった。つまり、炭鉱が島にやってきて、全てが変わり始めたんです。観光と炭鉱は、「か」と「た」が違うだけで、基本的には同じこと、植民地型、搾取型の構造なんです。

T:物質的な破壊もさることながら、金星さんがまっ先に挙げられた、時間のことも重要です。自然との切っても切り離せない関係の中にある島の時間が一度壊されると、取り戻すのはとても難しいと思う。

I:そう。例えば私の家は先祖から500年続いている。500年の厚みがあるから500年先が見通せる。それが文化というものではないでしょうか。リゾートによって一時的に一部の人が潤うかもしれないけれど、島の人たちの暮らしや自然は断ち切られてしまう。

T:そして自然が破壊されてしまうと、未来の世代の生きていく基盤が失われてしまう。

I:そして、西表独特の価値が失われてしまって、西表を第二の故郷のように大事に思ってくれている外の人たちに、そっぽを向かれてしまうでしょう。

T:リゾートなんて、どこにでもあるわけですからね。リゾートがないことこそが西表の魅力なのに。


●スモール・イズ・ビューティフル

I:スモール・イズ・ビューティフル。これは西表にまったくピッタリのことばです。小さいけれど、そこに全てがセットになって揃っている、というのがこの島の特徴なんです。そして、そこに培われた文化の特徴は、山、森、川、サンゴ礁と、島のひとりひとりが、そのセット全てに関わり、利用して生きてきた、ということです。

 西表は、山の奥まで行っても、一日で帰ってこれる規模です。山の奥にはイノシシが何千頭といて、毎年何百頭と獲ることができる。海にはもちろんいつでも魚はいるし、サンゴ礁は海の畑といわれるほど貝や海草が豊富です。昔の人は、まずカマドに火をつけておいて、それから海に食べ物をとりにいったと言われるほどです。また、自然といかにつき合うかという伝統的な知恵や作法があって、それが歌や祭りごととなり、一年を通して神さまにお祈りし、感謝の気持ちを表す、豊年祭や節(ルビ:しち)行事となって表現されるわけです。だから、歌や踊りや祭りを守っていくことは、とても大事なことなんです。

T:リゾートというのは、その小さくてスローな美しい島に持ち込まれる巨大でファストな開発です。西表には、その小ささと遅さにふさわしい発展の仕方があるだろうに。

I:私ははじめから反対でした。でも、反対だけでは解決にはならない。それにかわる具体的な地域振興のあり方を、様々な人の知恵を借りながら模索してきたわけです。そのひとつがエコツーリズムです。

T:世界中でエコツーリズムが経済発展のための方法として注目されているけど、単にお金を稼ぐ手段であればマスツーリズムでもいいはずですよね。島の人々にとって、エコツーリズムはどんな意味をもっていると思いますか。

I:今、エコツーリズムは流行り言葉だけど、ややもすると、金儲けが先に立ってしまいがちです。でも、まず第一は自然環境を大切にすること。自然あってのエコツーリズムなんだから。お金は結果として後からついてくるもの。短期間に自然を食いつぶしてしまうのではなく、100年も200年先も見通せるようでなければ。さもないと必ず自分で自分の首をしめることになります。エコツーリズムとは諸刃の剣なんですね。

 実は観光地と言われるところほど、自分の時間がないんです。いわばお金で自分の時間を売り渡してしまっている。だから、本当のところ、私は、積極的に観光は進めたくないんです。あくまでも伝統的な生業と祭りを守るのが基本。そしてもし必要なら余った時間でエコツーリズムなどを進める。観光はあくまで「従」でなければならない。

T:小さな島には、それにふさわしい暮らしぶりがあるように、エコツーリズムにもそれなりのスモールでスローなやり方があるはず。

I:観光客にとっても、あっちこっち4島、5島と短い期間に回る、なんて大変。ただゆっくり過ごすだけでもいいんです。疲れている人は木の下でゆっくり寝て、島の風に吹かれる。それもひとつのエコツーリズム。きちっとスケジュールを組まず、流れにまかせてやるんです。縦横無尽にゆったりと。都会の人たちはみな時計をもってきて、動きを時計に合わせようとします。しかし、潮の満ちひきは、時計に合わせて起こるわけではない。エコツーリズムの基本、それは自然の流れに身を任せる、ということです。

T:ところで金星さんは時計をもっていないんですか。

I:もってませんよ。

■ 石垣金星(いしがききんせい)
西表島祖納部落に生まれ育つ。西表を代表する文化伝承者として、過去30年にわたって、島の自然と文化を土台とする「島おこし」運動に取り組み、伝統織物の復興、完全無農薬米の栽培、エコツーリズム協会の設立などで指導的役割を果たしてきた。現在「西表をほりおこす会」代表。三線と歌によるコンサート活動でも知られる。CDに真砂秀朗とのコラボレートによる「真南風{マーパイ}」など。

上にもどる
コラムの目次にもどる