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世話人・辻信一のコラム


ナマケモノ倶楽部(『BioCity』20より転載)

ナマケモノは怠け者?

 哺乳動物ミツユビ・ナマケモノは中南米の森林の象徴だ。特徴はまずその徹底した省エネぶり。普通の動物の半分ほどの筋肉だから動きがスローな分、細い枝にも登れるので安全。エネルギーが切れるとぶるさがったまま朝を待ち、日光浴で“再充電”。葉っぱばかり食べる菜食主義者、胃の中のバクテリアの助けでゆっくりと消化する。

 排便排尿は週に一度、危険を承知でゆっくりと木の根元まで降りて穴を掘り、用を足す。それは自分を養ってくれる木を、逆に支え養うナマケモノ的“農業”。そのふさふさした毛の中には多くの虫や藻類を棲ませているが、そのおかげで雨期には体がうっすらとモスグリーンの保護色になる。

 こうしたナマケモノの低エネ、循環型、共生と非暴力平和のライフスタイルこそ、21世紀の人類にとってのお手本だ。

ナマケモノ倶楽部って何?

 ナマケモノ倶楽部(通称:ナマクラ)は、1999年7月に発足した市民団体(NGO)。中南米に棲むナマケモノという動物の低エネ、循環共生型、非暴力平和の生き方をヒントとし、「Slow is Beautiful」をキーワードにして、環境運動(ナマケモノと原生林を中心とした生態系の保全)、文化運動(環境共生型ライフスタイルの提案)、フェアトレード・ビジネス(生産者と消費者の協力による有機農業、エコツーリズムを中心とした持続可能な地域づくりの推進)の3分野の融合を目標に活動してきました。現在国内のナマケモノ会員は150名を超え、海外にもすでに120名に及ぶ会員、賛同者がいます。

 ナマケモノ倶楽部のこれまでの具体的な活動として、ブラジル・エクアドルとの有機無農薬コーヒーをはじめとするフェアトレードの推進、2000年4月に開催された「有機コーヒー・フェアトレード国際会議」(ブラジル)、「オルタナティブ・エキスポ」(エクアドル)への参加・支援、エクアドルの現地NGOの支援、エクアドル在住のアニャ・ライト来日コンサートツアー開催、エクアドルへのエコツアー主催、原生林保護支援活動、ナマケモノ保護区建設支援活動などが挙げられます。

フィエスタ・エクアドル

 現在ナマケモノ倶楽部は、二年計画で「エクアドル」を焦点として活動しています。そもそもわがナマケモノ運動はエクアドルから始まりました。つまりエクアドルこそわたしたちの原点なんです。そして今もエクアドルとのつながりはますます強くなるばかり。世話人のひとりアンニャ・ライトは、この2年間の間エクアドルのコタカチ地方に住み、環境・住民運動で重要な役割を果たし、地元で高い評価を受けています。コタカチの雲霧林地帯ばかりではなく、エスメラルダス州のマングローブ地帯で、マナビ州の熱帯乾燥林地帯で、またアマゾンの熱帯雨林地帯で、環境保護運動と持続可能な地域づくりのパートナー・協力者としてのナマケモノ倶楽部への期待が高まっています。

 わたしたちは今年10月「フィエスタ・エクアドル」を開催し、広くエクアドル支援の輪を日本につくり出すことを提案しています。なぜ今「エクアドル」なのでしょうか。エクアドルは南米赤道直下にある日本の約3分の2、人口約10分の1の小国です。経済的にも貧しく政治的にも無力なこの国にしかし世界中の注目が集まっています。それはその類い稀な文化的・生物的な多様性のゆえです。有名な植物学者アルウィン・ジェントリ−は、この点でエクアドルを世界一と評し、またわれわれの仲間アンニャ・ライトはこの国を地球規模の環境破壊の海に浮かぶ「ノアの方舟」にたとえています。そこには3万5000に及ぶ植物種が認められ、それぞれ様々な方言を持つ13の言語が話されています。6000メートルを超えるアンデスの山とそれを取り囲む山麓の雲霧林から、東部アマゾン源流地帯や西部海岸地帯の熱帯雨林まで様々な生態系がモザイクのようにこの国の国土をつくりあげています。

 しかしこの地上の「楽園」エクアドルは同時に、近年世界で最も急激な森林破壊・出生率増加・土壌侵食に見舞われている国でもあります。石油採掘や入植のための道路が、アマゾン源流地帯の原生林の奥深くまで切り裂きつつあります。すでに9割以上の雲霧林が、マングローブ林が、そして熱帯乾燥林が失われたと言われます。エクアドルが世界の環境運動の1つの焦点となった理由がここにあります。

 ナマケモノ倶楽部はこのエクアドルのあちこちで現地のコミュニティー・NGOや海外から支援にやってきた個人や団体が、豊かな文化や生物の多様性を損なうような開発に反対し、持続可能なもうひとつの発展のあり方を模索し実践しているのに出会いました。わたしたちがエクアドルを応援しようと言う時、それは(ガラパゴス諸島やキト旧市街だけでなく)国全体が世界遺産とも言えるような、この国が持っている真の豊かさを守りながら、人々が健全な地域づくりを進め生活の向上をはかろうとする努力を応援しようということです。その意味でわたしたちはVIVA ECUADORと言うのです。そしてそんなエクアドルを祝福するための祭り「フィエスタ・エクアドル」を提案するのです。

スロー・イズ・ビューティフル

 ナマケモノという動物の生き方には、21世紀の人類生存のために役立つヒントがぎっしり詰め込まれているように思えるんです。いや、もっとはっきり言ってしまいましょうか。もし我々が相変わらず「より速く、より大きく、より多く、より強く、より遠くへ」を合言葉に大量生産、大量消費の経済や、生命の尊さを忘れた科学技術至上主義の道を走り続けて、ナマケモノ的に生きる道を選ばないなら、人類に未来はないんだ、と。

 ナマケモノ運動とは何か。それは単にナマケモノという動物を守ることだけを意味するのではありません。ぼくたちにとって「森の賢者」「森の守り神」「森の菩薩」などと呼ばれるナマケモノは、熱帯雨林をはじめとする世界の様々な森林の象徴なんですが、それだけではなく、ぼくたち人間の新しい生き方のシンボルでもあるんです。これまでにも「クジラを救え」とか「ゾウを守れ」とかという絶滅を危惧されるような動植物を保護する運動は数多くありましたね。でもわがナマケモノ倶楽部は世界で初めて、ある動物を守るだけでなく、ついでにそれに「なってしまう」という運動を展開しているんです。ナマケモノを守れ、森を守れ、そしてナマケモノになろう!というわけです。

 これまで日本では、環境運動といっても、自分自身の生活とは切れたところでの関わりが多かったように感じるんです。しかし、自分の暮らしぶりを変えることもできない人が、森を救うとか、海を守るとかということができるもんでしょうか。思えば「地球を守れ」ってずいぶん尊大な言い方ですよね。地球規模の環境危機について考え、問題の解決のために貢献しようとすることはもちろん大事なことです。でも「貢献」というとまたすぐ「競争モード」になって、「より速く、より多く、より大きな」貢献、なんていうことになりかねない。しかし、世界の環境問題に日本人ができる一番大きな貢献とは何かというと、そもそもそうした問題のおおもとである自分たちの生活をスロー・ダウン(ダウンが嫌な人はスロー・アップと言えばいい)させることではないだろうか。

 「ナマケモノになる」、それはエコノミック・アニマルをやめて、人間にふさわしいペースで生きるスロー・アニマルに戻ることです。しかし、「戻る」というのは過去への後戻りだと考える必要はない。映画のバック・トゥ・ザ・フューチャーみたいに、未来に向けて戻っていく。今までの急ぎ足で、多忙で、過労で、寝不足で、どん欲であればあるほど余計欲求不満な、競争的で、神経質で、イライラ、ギスギスした生き方(身に覚えのない人はごめんなさい、あなたはもう立派なナマケモノです)をやめにして、のんびりと楽しくエコロジカルに生きる新しいライフスタイルを見い出すことです。

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