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小さな種(和田彩子)


Vol.0 終盤戦

 本格的におなかが大きくなり、おなかがつかえて水道の蛇口まで遠くなったとか
、座っているだけでも息が切れるだとか、服が着れなくなったとか、外見的にも妊
婦らしくなり、いよいよ臨月に入りました。

 しかしここでまた問題が勃発しました。産院のお医者さんに、膣が感染している
から、帝王切開しなければならいと言われたのです。帝王切開しないと、生まれて
くるときに、赤ちゃんが目、あるいはのどに障害を持って生まれてくるかもしれな
いと。それに対するのパートナーの反応は予想外のものでした。「帝王切開断固反
対」。その反対っぷりにはびっくりしました。私自身も、大喜びで帝王切開したい
わけじゃないです。言われてものすごく戸惑いました。感染ってなんで?いったい
何に感染したの?帝王切開ってやったらどうなるの?でも、生まれてくる赤ちゃん
に危険が及ぶのは絶対に避けたい。でもパートナーは、「帝王切開なんてやったら、
アヤが危ないし、もうアヤがアヤでなくなる。それにどんなふうに生まれても、障
害を持って生まれても、大切な赤ちゃんは赤ちゃんだ」と言うのです。また文化の
違いがこんなところで現れました。これでまた大喧嘩になりました。
 
 すったもんだした挙句、もう一度リスクを聞きにお医者さんに行きました。そ
うしたらば先生に「望むのなら普通分娩でもいいけれど、その代わり赤ちゃんに
障害が出ても医者の責任ではないという書類にサインをしてもらいます」と言わ
れました。どうしてそんなふうに脅されるように言われないといけないんだろう
とものすごく弱い立場にいる自分を感じました。でも何にも言えません。先生は
リスクを話してくれている、でも私はそれでも普通分娩をお願いしているから、
これはしょうがないのだろうか…、もし赤ちゃんに本当に障害が出たら私は生ま
れてくる子になんていえばいいんだ、大きくなって目やのどに障害があることを
私はどうやって説明すればいいんだ。そういうことが頭をぐるぐる回ります。そ
のとき、私はひとりで産院に行ったので、判断がつかず、とりあえずパートナー
と相談してからまた来ます、と言って、産院を出ようとすると、先生は、「あ
あ、もうひとつ。私は5月26日(出産予定日)には会議があって、出張だから、
出張の前に手術をしたい。」と言われました。それに私は呆然としました。「な
んだ、そりゃ?!」その有無を言わせないような雰囲気に言葉が出ず、産院を出
て家に帰り、仕事から帰ってきた彼に報告しました。

 そうしたら案の定、怒り爆発。「医者を殴ってくる」という彼を止めて、もう
自分たちだけでは判断がつかなかったので、昔看護士をしていたという、オラン
ダ人の友達に相談にいきました。彼女に言われたのが、@感染と言うが、血液・
尿検査はしたのか?(答:してない)A感染しているから、帝王切開という図式
は、成り立たない、B帝王切開をやらなければいけないのはともかく、会議があ
るという医者の都合で決めるのは絶対的におかしい、と言われ、すべて、確かに…
と思い、帝王切開よりもそのお医者さんの都合で産まなければいけないことにど
うしても納得がいかず、そのお医者さんのところで産むのは、その場でやめ!と
決め、泥縄根性もいいところで、それからまた範囲を首都キトまで広げ、別の産
院を探し始めました。出産予定日の3日前です。本当に最初いい加減に決めたツケ
が回ってきたと強烈に反省しました。
 
 そこで友人の友人の娘さんで助産婦さんをしている人がいることを思い出し、
その友人に相談し、そこでいくつかピックアップしてもらい、すぐキトに向かい
ました。キトで産むというのは、なんとなく金持ち外人っぽくっていやだったの
ですが、もう家の周辺にはなかったので、あきらめて、キトで探しました。いく
つかパートナーと産院を回り、感触がいいところがあったのですが、すべて費用
がコタカチ近辺の3倍以上。びっくりしました。うーん、さすが貧富の差が激しい
エクアドル…。でもその中で、一際惹かれた産院がありました。

それは水中分娩をやっているところでした。そこの先生は、血液検査と尿検査を
すばやくやってくれ(他の病院では、これらの検査をやるのに他の場所でやって、
検査結果をもってこいを言われた)、できるだけ早く結果が出るように技師にお
願いしてくれました。そして水中分娩も細かく絵を描いて教えてくれました。温
かいお湯の中に身を沈めることは、母体にとって、リラックスもできるし、心も
落ち着く。また水の中では体勢を変えることが楽にできる。赤ちゃんにとっても、
産道を通って外に出る前に、お湯というワンクッションある方がよい、そして水
から出てすぐに母の胸に抱かれることができると。実際に分娩室も見せてもらい
ました。木の家具やキャンドルが置いてあって、いかにもリラックスできそうな
雰囲気。心身ともにぐったりしていた、私はもうとにかくちゃんと産めるならど
こでもいいと思いかけていましたが、その先生には何かやわらかいパワーを感じ
ました。そして思わず、「おもしろそう…」と思ってしまいました。最初にいい
加減に産院を決めたツケだ、結果として高くついたのはしょうがない、勉強料だ
と思って、そこに決めました。(事情を話したら、安くしてくれました!)
 
 そして陣痛が始まってから、首都のキトへ向かう勇気はどうしてもなかったの
で、早いかなと思いつつ、出産予定日、コタカチから大荷物を持って、産院に向
かいました。

 次はいよいよ!の「出産章」です。またまたここまで読んでくださった方、あ
りがとうございました。


ワダアヤ

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