| <カルロス・ソリージャ>
暗い木陰のトンネルに光が射すと、黄緑色の葉っぱが透き通る。太平洋からの雲をアンデス山脈がせき止め、
霧をかける森。そのしずくをもう一度あつめて、銀色に光るインタグ川。その支流に寄り添うカルロスさんの
家への道は、「世界で一番素敵な通勤経路」。ネムの花や、みたこともないいろんな蝶の羽の模様。犬が
ちょっと苦手な私が、野良犬に何度も吠えられながらも笑って歩ける、すてきな道。
まわりにレモンの木が増えてくると、もうすぐカルロスさん家。
家につくと、大きくて暖かいカルロスさんのハグのあとに、黒砂糖で割ったレモネードが出てくる。
キッチンには、ちょっと苦いレタス。全粒粉の香りが鼻腔を満たすパン。もちろん全てオーガニック。
カルロスさんの書斎は、大分昔から、くるくるした省エネ電球。必要な情報のためのインターネットもある。
大好きな禅について書いた本を持ってきて、日本から来た私達に、誰か「禅」について語れる人は居ないか、
と聞く。インタグ森や鳥の写真ばかりのカメラ。古い大好きな唄と、部屋の真ん中に置いた、ギター。
暗い森を背景に、暖かい色に照らされた小さな、でも快適そうな部屋。手作りの素敵な木枠が、
生きるのに必要なものと、要らないものを丁寧に区分けしている。要らないモノも、情報もない。
夕食の時間になると、漆喰とガラス張りの手作りサンルームには、ちゃんと暗闇が入ってくる。
ランプとろうそくに明かりをともし、みんなで木のテーブルを囲む。
お父さんに甘えたり、議論をしたり、日本の空手に興味をもったり、いろんな面を持つ2人の息子。
ユカイモのパンや、インゲン豆とネギの煮物、近所の誰かが作った、フレッシュチーズ。
シンプルな白いシーツは、テコの原理を使った手動の非電化洗濯機で洗う。
大鋸屑をかけると匂いもまったくないコンポストトイレ。用を足すことで、地球にお返しが
できるなんて、最高の気分。
山に降ったしずくが滴り流れを作るような森の時間、それをそのままに寄り添うようにして、
カルロスさんは家族の暮らしを作っていた。神話的でさえあるような時間。
鉱山開発に反対する、インタグの人たちを支え、コーヒー栽培を組織し、保護林を広げて、
世界の最先端の事例を作る。その取り組みの傍らに、圧倒的に質の違う豊かな豊かな暮らし。
翌朝は、日が昇る前に起きて、カルロスさんについて散歩に行く。私はどんなに疲れてても
カブヤのグループとの仕事があっても、朝はカルロスさんに散歩に連れてってもらうことに決めている。
まだ暗いうちに起きる。ベッドから降りると、ひんやりとした木の床に足が吸い付く。月明かりで顔を洗う。
花の香りが立ちこめている。大好きなカルロスさんの足音を聞いて、犬が着いて来てしまう。ああ、鳥が
見つかりにくくなっちゃうのよ。家から20分くらいの聖なる滝で身を清め、幻の鳥、ケツァルを探しに。
隠れることのできるくらいの大きな葉。朝と夜で色の違う花。川面が照り返す、太陽の光。蘭や木々の蔓。
ハチドリやオオハシが飛び交うなか、子供たちは、山の麓の小さな丸い小屋で勉強している。
私は遠くから、それを眺めながら、地球の中で、カルロスさんたちが、ここで子供を育て、この森に寄り添う
ことを選んだことの重みを思った。そして、こうしちゃいられないと思った。生きることは、こんなに鮮やかで、
気持ちがよかったんだ。私も、生きること、生かされることの本来の歓びを、自分たちの元に取り戻さなくちゃ。
カルロスさんが、ギターを弾きながら、私たちに聞いたこと。
「生き物は、鳥も虫も微生物もみんな、自然界の大きな環の中で暮らしている。
だけど、人間だけが、いつしかその環からはずれ、とりすぎたり、無駄に他の命を壊したり
するようになった。そして人間は不幸になった。どうしたらわたしたちは、自然界の大きな
環の中に戻れるんだろうか?」
その答えは、レモネードの中に、キャンドルの光に、散歩の途中に、カルロスさんの背中にあった。
環と環のはじっこを、むすぶようにして生きる。もしつながらなくても、とにかく、むすぶように
暮らすこと。それはとても時間のかかる、だけどものすごく豊かなこと。
最近、家族ができて、カルロスさんの家の印象がより鮮明になった。
うちの2人にも、あのお家、見せたいなあ。
|