気候変動か、社会システムの転換か?<3> by ローカル・フューチャーズ

2016年01月29日

辻 信一

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Climate change or system change? 
気候変動か、社会システムの転換か?
by ローカル・フューチャーズ


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2015年12月に合意された「パリ協定」についてどう考えるか、ローカリゼーション運動をけん引する『懐かしい未来』著者、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジを先頭とする「ローカルフューチャー」が声明を発しました。ヘレナさんたちの「ビッグ・ピクチャー」論にもとづく視点はとても重要で、日本にも広げる必要があると思い、ナマケモノ有志で翻訳しました。辻信一さんの監修を経て、連載方式で紹介しています!
>>原文(英語)で読みたい方はこちら。
http://www.localfutures.org/after-paris-climate-change-or-system-change/

ともに国際的な「グローバルからローカルへ」運動を担う仲間として、そのリーダーたちから届いたこの宣言に学び、それをシェアし、これからの運動の指針としたい。辻信一


一見、人口密度の高い都会の方が一人当たりの資源使用量は少ないように見えるかもしれません。しかし、それが言えるのは、都会を、エネルギー効率が非常に悪い「郊外」型の暮らしと比較した場合だけです。
工業化がまだそれほど進んでいない地域に未だ存在している、本来の意味で分散型の町や村に比べれば、都市化は極めて資源集約的で、非効率です。

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4)グローバル化は労働をエネルギー集約型技術で置き換える

グローバル化とは経済を“より大きく”、“より速く”することを意味します。巨大化と高速化というこの二つを同時に実現するために、エネルギー集約型技術がもてはやされ、逆に人間の労働が疎んじられることになります。サプライチェーンが数十カ国に股がることは今や日常茶飯事で、市場は拡大するばかり。工場では、かつて人間がしていた作業をロボットに任せるようになっています。銀行をはじめとする金融諸機関は、コンピューターを駆使して、数十の通貨を何百にも及ぶ世界中の株式・商品市場で取引きし、巨額のマネーの流れを操っています。

大企業側の主張によれば、こうした変化は“規模の効率性”が生み出した成果です。しかし実は、そこにはごまかしがあって、すべてのコストを計算に入れれば、エネルギー集約型技術がより効率的ということはないのです。エネルギーの値段には、温室効果ガス排出を含めた環境コストは含まれていません。だからこそ、エネルギーを多く使えば使うほど、安くつくというおかしな状況が人為的につくりだされるわけです。同時に、各国の政府はエネルギーと技術の双方に、多種多様な―—多くの場合、隠然たる―—助成金を支給しています。技術に投資する企業には税制優遇措置、税控除、加速償却などによる支援の手が差し伸べられますが、その一方で、企業が労働者を雇うのには高額な給与税がかかるので、ますます人間の労働力は高くつくことになるのです。

先端技術に対する助成金の多くは隠されています。例えば、小学校から博士課程に至るまで、教育機関は、先端技術分野の企業のために税金をつぎ込んで若者たちを訓練する。一方メディアは、コンピューターの前に坐ってするのが“よい仕事”で、職人のように手作業で物をつくるのは“原始的で時代遅れ”といったイメージをつくり、補強し続ける。その結果、多くの親は、まだ歩けない幼い子どもにコンピューターをもたせたりすることになるのです。

“南”の諸国へとすでに移された、製鋼をはじめとする重工業と違って、コンピューターは“クリーン”な技術だ、と思われがちですが、それは神話です。ハイテク世界のほとんどが拠りどころとしている数万カ所ものデータ集積センターは膨大な電力を必要とします。たった一つのデータセンターが中規模の町と同じくらいの電力を使う。それは世界全体で言えば、原発30基相当の電力です。この電力の大部分は、無駄に消費されている。というのは、急激な負荷の増加によるシステムの減速や故障に備えるバックアップのためだけに使われているからです。これがクリーンなイメージを売り物にするコンピューター業界のエネルギー浪費の実態です。ある関連企業の幹部が言うように、「これが製造業だったら、とっくに倒産している」というような話なのです。グーグルやフェイスブックを含むインターネットを基盤とする企業の多くが、データセンターの停電対策として設置したディーゼル発電設備は、大気汚染防止法違反で是正勧告を受けています。

Photo: UNEP

Photo: UNEP

もう一つ、深刻なのは“e廃棄物”。電子機器産業が生み出す有害廃棄物は、世界で今最も急速に増加中の廃棄物で、今後4年間で約30%の増加が見込まれています。毎年、新機種のスマホを発売しては、今使っているものを時代遅れにしていくのが企業のイノベーション戦略。増え続ける廃棄物はその“成果”なのです。米国だけでも年間1000万トンの電子機器がゴミとなり、そのほとんどが、リサイクルの美名の下、“南”の国の貧しいコミュニティに運ばれる。それは事実上の“投棄”です。

結局、グローバル経済の巨大化と加速化が意味するのは、人々が担ってきた仕事を、技術によって片っ端から置き換えること。その技術を支えるために補助金を投入し、それが生み出す汚染には目をつむる。これが、効率的な仕組みと言えるでしょうか? 納税者のお金を使って、雇用を奪い、環境を汚染し、温室効果ガスの排出量を著しく増加させているというのに。

5)グローバル化は世界の都市化を促進する

グローバル化の下にある消費者文化は、ますます都会的なものになっています。一見、人口密度の高い都会の方が一人当たりの資源使用量は少ないように見えるかもしれません。しかし、それが言えるのは、都会を、エネルギー効率が非常に悪い「郊外」型の暮らしと比較した場合だけです。それに、そもそも郊外というもの自体が都市化の産物です。工業化がまだそれほど進んでいない地域に未だ存在している、本来の意味で分散型の町や村に比べれば、都市化は極めて資源集約的で、非効率です。

それもそのはず、高度に都市化された住民の物質的需要は、事実上全て外部からの供給によってしか満たすことができない。だから、エネルギー集約型の巨大インフラが不可欠なのです。例えば、都市住民が消費するほとんど全ての食料は、エネルギーと化学肥料・農薬を多投する巨大農場で生産されるのが普通だし、その生産物は全て、わざわざ大型トラックが走れるように建設された道路を使って都市に輸送される。同じように、都会への水の供給には、巨大ダム、人口貯水池、はるかな距離をつなぐ水道管が必要。都市への電力供給には、集中型の巨大発電所、石炭やウランの鉱山、そして何千キロにも及ぶ送電線が必要です。

“南”の諸国でも、都市化が進行するにつれ、一人当たりの資源使用量が増加しています。ヴァンダナ・シヴァはこう指摘します。
「都市に移り住んだ瞬間から、一人ひとりの電気と水の使用量は急増する。都市を維持するための一人当たりのインフラは、地方の村での質の高い生活のためのインフラよりずっと多くの資源を必要とするのだ」

都市生活の“エネルギー効率のよさ”を示す統計が歪められているのは、国ごとの温室効果ガス排出量を比較する統計の場合とよく似ています。地方で生産された商品の消費地は都市部であるにもかかわらず、生産過程でのエネルギー消費が、統計の上では全て地方に組み込まれているのです。

世界規模の経済成長という妄想を追い求める人間のせいで、毎年、何千何万という生物種が絶滅に追いやられています。そしてもし気候変動がこれ以上加速したら、地球は人間にとってさえ居住不能の場所となってしまうかもしれません。経済の巨大化を続ける一方で、温室効果ガス排出の削減に取り組んだとしても、それは結局、無駄な努力に終わるしかないのです。

image: Oxfam

image: Oxfam

貿易自由化をさらに押し進めようとする動きがその好例です。貿易の規制を緩和して障壁を取り除けば、上述したような理由によって気候変動を加速させるだけでなく、各国政府が温室効果ガス排出量削減のための政策を導入することをさらに難しくしてしまいます。例えば、近年の「自由貿易条約」のほとんどが、「ISD(投資家対国家間の紛争解決)条項」を含んでいますが、これによって企業は、自分に減益をもたらすと思われる国内法や自治体の条例に対して異議を申し立てることができるようになります。そのような場合、法的な後ろ盾を何もたない3人の国際貿易専門の弁護士によって構成される“法廷”で審問が行われます。

企業がISD条項を使って政府が定めた法律や規則――そこには環境保全のための法律も含まれる――に挑んだ事例は既に500以上になります。例えば、NAFTA(北米自由貿易協定)の場合、ケベック州が “フラッキング(水圧破砕法)”による天然ガス採掘を一時禁止したため、米国のローン・パイン・リソース社は2億5千万ドルの損害賠償を求めてカナダを提訴しました。スウェーデンの大手電力会社ヴァッテンフォール社は最近、原子力発電を段階的に廃止するというドイツ政府の決定をめぐって、37億ユーロの損害賠償を求める訴訟を起こしています。同じヴァッテンフォール社は、5年前にも15億ドルの損害賠償を求めてドイツ政府を訴えていますが、それは石炭火力発電所の建設にあたって、環境法による規制を回避するためでした。温暖化防止のための法律や規制もISD条項のターゲットにされるのは間違いありません。

それにもかかわらず、世界の政治指導者たちは、温室効果ガス排出量の削減が急務だと説教する一方で、TPP(環太平洋貿易パートナーシップ)やTTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)をはじめとする自由貿易協定推進の手を緩めません。例えば最新の報告書にはこうあります。
「TPP協定の投資に関する章には、世界最大級の化石燃料企業を含む海外投資家に、気候変動対策への抵抗を可能にする広範な権利を新たに与えることが書き込まれている」
ISD条項の対象を、各国の国有地や領海内の石炭、石油、天然ガスなどの資源へと拡張することで、一連の新たな条約は、貿易自由化による負の影響を飛躍的に増大させることになるでしょう。

翻訳監修:辻信一
翻訳チーム:宇野真介、中久保慎一、和田彩子
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