気候変動か、社会システムの転換か?<2> by ローカル・フューチャーズ

2016年01月18日

辻 信一

climate-slide-768x192


Climate change or system change? 
気候変動か、社会システムの転換か?
by ローカル・フューチャーズ


.連載その1はこちら!
http://www.sloth.gr.jp/column/localfutures_1/


2015年12月に合意された「パリ協定」についてどう考えるか、ローカリゼーション運動をけん引する『懐かしい未来』著者、ヘレナ・ノーバーグ=ホッジを先頭とする「ローカルフューチャー」が声明を発しました。ヘレナさんたちの「ビッグ・ピクチャー」論にもとづく視点はとても重要で、日本にも広げる必要があると思い、ナマケモノ有志で翻訳しました。辻信一さんの監修を経て、連載方式で紹介しています!
>>原文(英語)で読みたい方はこちら。
http://www.localfutures.org/after-paris-climate-change-or-system-change/

ともに国際的な「グローバルからローカルへ」運動を担う仲間として、そのリーダーたちから届いたこの宣言に学び、それをシェアし、これからの運動の指針としたい。辻信一


“気候の安定性と国際貿易を秤にかければ、貿易が優先されるのが常です。例えば、京都議定書による国家間のとり決めからも、空輸や海運による温室効果ガス排出は除外されています。その結果、貿易会社が無駄な長距離輸送による経済的な利益を得る一方で、自然環境や気候にそのしわ寄せがいくことになるわけです。”

私たちは、企業の戦略に惑わされてはなりません。そして、温室効果ガスの排出量を増大させてきた本当の原因である、企業主導のグローバル経済という仕組みそのものに注目するのです。グローバル化とは何か。それは、一連の“自由貿易”協定や合意(例えばTPP)を主な手段として、国際的な貿易や投資の規制緩和を進めていくプロセスのことです。こうした協定のおかげで、企業や海外の投資家はより有利な条件を求めて、自由に国境を超えることができるようになります。有利な条件とは、低コストの労働力や資源、低税率、潤沢な補助金、環境や労働者を保護する規制の弱さ(あるいはその欠如)などです。一国の政策は―—大気や水などの環境汚染を防止する法律さえ―—貿易や海外からの投資の“障壁”と断じられ、自由貿易協定の名の下に否定されうるのです。

1997年の「京都議定書」締結以降20年足らずの間に各国政府が批准してきた、四百以上にのぼる2国間及び多国間貿易協定が、グローバル化の主たる原動力でした4。そして、このグローバル化こそが、グローバル大企業をますます巨大化しただけでなく、気候を不安定化させる大気中のCO2を増加させてきた大きな原因なのです。

では、グローバル化がどのように温室効果ガス排出量を増加させてきたか、以下、5つの側面から見ていきましょう。

Image: International Business Alliance

Image: International Business Alliance

1)グローバル化は無駄な運輸

かつて貿易とは、自分の地域の内で生産できないものを手に入れたり、互いの地域の余剰分をやりとりすることを意味していました。しかし、現在のグローバル経済では、必要性とは無関係に、すぐ近隣で手に入るのと全く同じものを、わざわざ、何千キロも離れた遠方から調達するような無駄な貿易が横行しています。グローバル食料システムがまさにそれです。巨大なスパーマーケット・チェーンは、それ相応の大規模農家と契約して全店舗への商品調達をしますが、その一方で各店舗の近隣にある小規模農家は無視されます。このような仕組みがあるからこそ、例えば、イギリスは、オーストラリアを貿易相手として、年間1万5千トンのワッフルを輸出する一方で、同量のワッフルを輸入し、ペットボトル入りの水20トンを輸出する一方で、同量を輸入している。スペインのシトラスコーストのスーパーに輸入物のレモンが並ぶ一方で、地元のレモンが腐るにまかされているのも5、あるいは、カナダが温室栽培のトマトの輸入国であると同時に輸出国であるというのも、同じ理由なのです6。似たような事例は世界中にあふれています。

ほんの数円でも生産コストを削ったり、販売価格を上げたりするという、ただそれだけのために、食品をはるか地球の反対側まで輸送する場合もあるのです。米国のシーフード会社「トライデント」はその典型例です。人件費削減のため、年間1万トン以上の魚を中国に送って切り身にし、それをまた米国に送り返して販売しています7。

工業製品の貿易では、食品の場合ほど、同じものが行ったり来たりする“重複”は起こらないとはいえ、グローバル化が進むにつれてその輸送距離は増加しています。着々と工場が“南”へと移動し、衣服やおもちゃから台所用品にいたるまで、“北”の国々で消費される製品の多くは自国や近隣地域ではなく、遠い“南”の国々で生産されるようになってしまいました。すでによく知られているように、アメリカ企業の製品のほとんどは中国で製造され、地球を半周してアメリカの消費者の手に届くのです。

道理で、グローバル化によって国際貿易が拡大するのに比例して、温室効果ガスの排出量が増加するわけです(下図参照)。さらに困ったことには、グローバル化が進むと、温室効果ガスの排出責任を国別に負わせることが難しくなってきています。ある研究者はこう言っています。

「デンマークの海運会社が運用しているリベリア船籍の輸送船が、中国で製造された欧州企業の製品を、北米で販売するために上海からロサンゼルスへ輸送するとしよう。この輸送のための温室効果ガスの排出責任を、誰に、どのように割り当てるのか、そして排出削減の責任を誰が負うのか? この種の問題を政治的に解決することは難しい。」8

気候の安定性と国際貿易を秤にかければ、貿易が優先されるのが常です。例えば、京都議定書による国家間のとり決めからも、空輸や海運による温室効果ガス排出は除外されています9。その結果、貿易会社が無駄な長距離輸送による経済的な利益を得る一方で、自然環境や気候にそのしわ寄せがいくことになるわけです。

気候の安定性と国際貿易を秤にかければ、貿易が優先されるのが常です。例えば、京都議定書による国家間のとり決めからも、空輸や海運による温室効果ガス排出は除外されています9。その結果、貿易会社が無駄な長距離輸送による経済的な利益を得る一方で、自然環境や気候にそのしわ寄せがいくことになるわけです。

Sources: CO2 emissions data from 2012 BP Statistical Review of World Energy; trade data from World Development Indicators, World Bank (constant 2000 dollars)

Sources: CO2 emissions data from 2012 BP Statistical Review of World Energy;
trade data from World Development Indicators, World Bank (constant 2000 dollars)


世界の商品取り引き(GDP比 %)
世界のCO2排出量(百万トン)
出典:CO2排出量データ 2012 BP Statistical Review of World Energyより、貿易データ(恒常ドル 2000年=100)世界銀行世界開発指標より

.
2)グローバル化は止めどない消費

金持ちの国の人々による大量消費こそ、温室効果ガスの排出に限らず、様々な環境汚染や資源枯渇を引き起こす元凶です。自然環境が私たちに消費を減らすよう、警告しているというのに、もう十分豊かなはずの国々でさえ消費を増やし続けようとしています。なぜなら、グローバル経済の基盤となっている経済モデルそのものが不断の成長を必要とするようにできているからです。実際、景気が低迷する度に、各国政府は、金利の引き下げや税金の軽減など、様々な策を講じては、個人消費を“刺激”する、つまり、人々にもっと消費させようとしてきました。

一方、世界の“低開発”地域には、経済成長によっていつかは欧米諸国並みの生活水準を実現できるという考えが広まっています。しかし、その目指すべき“先進”諸国は、どうでしょう。すでに自分の取り分をはるかに超える資源を浪費して、温室効果ガスをはじめとする廃棄物を生み出し、地球にさえ重すぎる負荷をかけています。“先進国”以外の国々による消費と汚染がこれと同じレベルが達したならば、地球があと4つなければ間に合いません。

経済のグローバル化による消費増大の一面は、消費の均質化です。元来、多様な文化をもっている世界中の人々が、同じ価値観、好み、そして消費者としての習慣を身につけるように仕向けられているのです。現代的な欧米のライフスタイルを理想化したイメージが、マスメディアを通じて毎日、世界中の人々に浴びせられ、その一方で、地域の伝統や土地に根ざした生き方は暗に貶められます。“洗練された都会、時代遅れのダサい田舎”、“輸入物の加工食品や工業製品は、地域で生産された物よりも優れている”というのが、そのメッセージです。中国で広告を率いる一幹部によれば、「輸入は上等、国産はゴミ」なのです。

その結果、何百万という人々が自分たちの文化を拒絶して、アメリカン・ドリームを追いかけようとします。地域の伝統食を捨て、マクドナルドのハンバーガーやインスタント・ラーメンへ、地元産の羊毛・亜麻・綿を手放して、ブランド物の輸入ジーンズや化学繊維の服へと向かいます。そして、その変化の過程で、エネルギー浪費的な資源利用が増加し、同時に、汚染物質や温室効果ガスの排出量も増えるのです。

世界の大部分を占める“南”の人々よりも大量の“モノ”を抱えているはずの“北”の消費者たちはどうでしょう。企業は宣伝広告によって、人生が“ゆりかごから墓場まで”、消費で成り立っていると人々に思い込ませ、「計画的廃用化」(技術革新・モデルチェンジなどにより次々と新製品を出して, 消費者により新しい製品を買わせようとすること)によって、新たな欲求を延々とつくり続けることに、みごとに成功しています。まるで消費の“踏み車”ですね。しかし、踏み車は所詮、踏み車。こうした消費によって経済が前に進むことはありません。基本的欲求が満たされてしまえば(北諸国はこの状態に達して久しい)、その後はいくら消費を増やしても、幸福度の上昇につながらないことは、すでに様々な研究が明らかにしてきた通りです。

消費文化のグローバル化によって、得をするのは一体誰かって? それは、グローバル企業と銀行です。「成長」という彼らにとっての至上命題は、何百万人という人々の過剰消費(そして、その結果である環境破壊)によって達せられるのですから。

.
3)グローバル食料システムは気候変動の主要因

温室効果ガスの総排出量の19〜29%が食料関連分野に由来すると言われています。そしてその割合は増え続けていますが、それは以下に見ていくように、食料システムがますますグローバル化されているせいなのです。

a)すでに述べた通り、グローバル化が進むほど、同じ物が重複して行ったり来たりするような無駄の多い貿易が増え、何千キロもの余分な輸送が必要となり、フード・マイレージと温室効果ガス排出量が増大します。

b)グローバル化した食品経済では、ローカルな経済に比べて、はるかに多くの加工と包装が必要になります。例えば、米国では、食品に使われる全エネルギーの三分の一を加工・包装が占めています。

c)グローバル化は、その構造からして、大規模モノカルチャー(単一栽培)型の農業と連動しています。グローバル市場で競い合う商社は、国際取引向きの少数の食品を、それぞれ大量に扱うことが必要です。そのため、単一作物を栽培する少数の巨大農場を相手にする方が、多品目を栽培する何百、何千の農場を相手にするよりはるかに楽なのです。大規模単一栽培の農業は、農薬や農業機械への依存度も高いため、温室効果ガスの排出を増やし、土壌を劣化させ、土が本来もっている炭素固定の能力を低下させてしまいます。

d)グローバル化がもたらす食生活の変化もまた、温室効果ガスの排出増加につながります。西洋式の食習慣が広まったおかげで、世界の食肉消費は2050年までに倍増するという予測があります15。その食肉のほとんどが、気候変動の要因の一つである工場式農場で生産されることになります。例えば、工場式に生産される“ブロイラー”は、平飼い鶏の7倍もの温室効果ガスを排出するのです。

その上、“北”の先進諸国の消費者は、もはや季節にとれる食べ物では満足しなくなっています。スーパー・マーケットに、何千キロも離れた土地で育てられた、季節外れの食品が並んでいるのは、日常的な光景です。こうした生鮮食品の多くは、単一栽培の大規模農場で生産され、しかも冷蔵保存と空輸を必要としますから、それだけ、気候変動への影響も大きくなります。

e)グローバル化した食料システムは、さらに、熱帯雨林をはじめとする生態系を破壊し、自然界のもつ炭素固定の能力を劣化させています。その要因は、すでに見たとおり、食料のグローバル化が要求する農業の大規模モノカルチャー化です。例えば、ブラジルではアマゾンの密林が広大な大豆畑に、インドネシアでは熱帯雨林がアブラヤシのプランテーションに姿を変えています。ブラジルの環境活動家カミラ・モレノが指摘するように、「本当に森林破壊を止めたいのなら、アグリビジネスを解体することです。それこそがすべての“南”側諸国の森林破壊の主な原因なのですから」(つづく)

Photo: REGcharity. org)

Photo: REGcharity.
org)

翻訳監修:辻信一
翻訳チーム:宇野真介、中久保慎一、和田彩子
Page Topへ