ブータン奥地の村でオーガニックコットンがよみがえる 辻信一

2014年09月08日

辻 信一

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チモンから届いた布R0016915

ブータン奥地の村でオーガニックコットンがよみがえる(Be-Pal連載2013年9月号より)

数年前、首都のティンプーから車で4日間、そこからさらに丸一日歩いて最後の峠を越え、東部ブータン奥地の村チモンを訪ねた。それは、わが友ペマ・ギャルポの出身地だ。ぼくとは前世の兄弟同士だと、彼は考えている。とすればぼくにとってチモンの人々はみな親戚縁者だ。

そこで受けた大歓迎ともてなしにぼくは衝撃を受けた。あの村人たちの底抜けの明るさと優しさと人の良さが、ぼくの人生観を変えてしまった。

そのチモンに電気と道路がいよいよ到達する日が迫っていた。村人と同様、その日を楽しみにしながらも、同時にペマは悩んでいた。

道路と電気を皮切りに、開発の波がこの奥地に及べば、村は外界への依存を強め、大昔から続く伝統文化と自給自足の暮らしは失われてしまうのではないか。そして人々は誇りを失い、若者たちは職を求めて去る……。そう、それこそがまさに世界中の村々で起こってきたことなのだった。

GNP(国民総生産)のかわりにGNH(国民総幸福)を目標として掲げるこのブータンで、開発が山村の不幸ではなく、さらなる幸福へと通じるような発展の道筋はないものか?

ペマとぼくはこう考えた。村の衣食住のうち、最大の問題は衣だ。東部ブータンではいまだ織物が盛んだが、糸は海外産に頼っている。綿糸の輸入先であるインドで栽培されているコットンの95%が遺伝子組み換えだとは、2020年までに全土オーガニック化を実現しようとしているブータンにとって、なんという皮肉だろう。

早速、チモンで35年ぶりとなる在来コットン復活プロジェクトが始まった。幸い、近隣の村で細々と自家用の栽培を続ける人から種を借りることができた。耕作放棄地を開墾し、火入れをし、種を蒔く。若い頃に豊富な経験を積んだペマの父親が指導。もちろん、すべて伝統的な有機農法だ。

種蒔きが遅くなったせいで収穫は真冬にずれこんだが、期待以上の出来だった。今度は女性たちが綿を糸に紡ぎ、草木染めをし、布地に織りあげる。まずは男性の伝統服ゴが仕立てられ、今春、首都ティンプーで話題になった。

さらにサンプルの布の一部はタイを拠点に活躍するデザイナーで、手紡ぎ、手織り、天然染めの布による服づくりで知られるさとううさぶろうさんの手で、2着の優美な婦人服へと姿を変えた。

そのさとうさんは著書でこう語っている。効率ばかりを追いかけると、「モノのほんとうの力」は出せないが、「生きる喜びのなかで育った自然のままの素材を心をこめて楽しみながら創造すると」、「いのちのかたまり」のような服ができる、と。そもそも、自然の一部である私たち人間自身が「いのちのかたまり」なのだから、と。

チモンでは、すでに共同組合が結成され、去年よりずっと広い畑でコットン栽培が行なわれている。その成り行きにブータン政府も、村々も注目する。ホンモノの服をつくる文化がブータンに再生する日が近づいている。

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