誰のための発展?~ブータン、イビサ村村長の話から

2011年11月03日

その他

文:禰津 匡人

ブータンのプナカ県イビサ村で、キンレイ・ツェワン村長の話を聞かせてもらった。話をさせてもらったところは村の一般的な民家で、ブータンの民家に入るのはその日が初めてだった。

ブータンの民家には外だけではなく中にも絵が書いてあり、その絵は守り神だったり不思議な模様だったりと、日本にはない新鮮な光景が私を楽しませてくれた。

そんな素敵な家の中でツアーのメンバーは円になって床に座り、村長が話すゾンカ語をガイドのソナムが英語にし、その英語を万意さんが我々に伝えるという、なんとも不思議な状態で村長の話は始まった。

村長の話は農業の話や若者の話、GNHの話など村長の体験と村からの目線で私たちに話してくれた。例えば農業の話は化学肥料が村で問題になったことを話してくれた。

昔この村では、牛の糞などを肥料に使っていたが、政府に化学肥料を進められ、使ってみたところ、2年ほどはたくさん取れたが、それから取れなくなってきてしまったらしい。村長がオレンジを育てていたときも、化学肥料と同時に殺虫剤をもらい、その殺虫剤を使い続けていたら、やはり2年ほどはたくさん取れたが、その後、オレンジの木はすべて枯れてしまった。政府は農作物がダメになっていくのに危機感を感じ、こういった問題が今後起こらないよう、ブータンは有機農業を推進するようになったのだという。

ツアー参加者から、村の若者たちが都市に出て行ったりしないのかと質問したところ、村で農業とは違う職業をしたがる若者は増えているとのことだった。村としてはその若者を応援したいが、その若者たちが村に帰ってきたとき、農業のやり方を知らないので仕事がなくなってしまうのが不安だと村長は話していた。

私がここで思い出したのは政府の話だ。今、ブータン政府は各村々を道路でつなぎ、より多くの人を都市に迎えるようにと動いている。そんなことをしては、若者たちが村から出ていってしまい、日本のように山村や農村の過疎化への道をたどってしまうのではないかと思ったが、政府はそれを防止するために、教育に目を向けていた。

政府は教育の中で、若者が村から出てもまた村に帰って生活できるような仕組みをしたら、村に戻るのではないのかと考えている。村長が不安がっている若者の話にうまく対応している。化学肥料の話だってそうだ。政府が化学肥料を配って2年間はうまくいったが、そこからは枯れてしまったり、作物が取れなくなったりしたら、政府が違う方法で農業をしていこうと動き出した。政府は村で起きている問題に対応しているのだ。

これはとてもすごいことだと思った。日本ではTPPを推進しようとしているが、それに反対している農業者はたくさんいる。しかしTPP推進は続いている。日本はうまく農業者の発信に対応できていない。

なぜブータンはこんなにもうまく政府と村がつながり、人々が納得いく社会を作っていくことができるのだろう。決定的に違うのは目指すものだ。単純な話、経済の発展か、幸せの発展か、それだけのこと。

日本の場合、経済の発展を目指し、TPPに入る。ブータンは国民が幸せであることを目指し、有機農業や若者の教育に力を入れる。その目指すものの違いで、こんなにも政治の姿勢は変わっていく。そんなことを村長の話をきっかけに考えていくことができた。

村長と話しているときツアー参加者があなたにとってのGNHは?と聞いたところ、「こうやってみんなで輪になって話していることこそが幸せだ」と話してくれた。

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